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平成30年版 犯罪白書 第7編/第4章/第3節/2

2 調査の結果
(1)属性等

傷害・暴行事犯者の属性等を,高齢群と非高齢群の別に見た人員は,7-4-3-1表のとおりである。

性別では,高齢群,非高齢群共に,男性がほとんどを占めていた。

罪名では,高齢群は,非高齢群と比べ,暴行の占める割合が高く,傷害の占める割合が低い(重複計上による。)。また,高齢群では罪名が傷害致死である者はいなかった。

被害程度では,高齢群は,非高齢群と比べ,被害なしの占める割合が高く,全治又は加療に要する日数が7日を超える被害程度であった者の占める割合が低い。

共犯の有無では,高齢群には,共犯ありの者はおらず,非高齢群も,共犯なしの者がほとんどを占めた。

7-4-3-1表 傷害・暴行事犯者の属性等別人員
7-4-3-1表 傷害・暴行事犯者の属性等別人員
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7-4-3-2図は,傷害・暴行事犯者の犯行時の年齢層別構成比を見たものである。高齢群では,65歳以上69歳以下の者が過半数を占めた。非高齢群では,30歳代の者と40歳代の者の占める割合が高く,これらを合わせると6割を超える。

7-4-3-2図 傷害・暴行事犯者の年齢層別構成比
7-4-3-2図 傷害・暴行事犯者の年齢層別構成比
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7-4-3-3図は,傷害・暴行事犯者の前科の有無別構成比を見たものである。高齢群は,非高齢群と比べ,有前科者の占める割合が高く,前科なしの者の占める割合が低い。さらに,同種前科(傷害又は暴行を含む前科をいう。以下この節において同じ。)ありの者が,高齢群では全体の約3分の1を占めている。

なお,非高齢群では同種前科ありの者の占める割合は年齢層が上がるにつれて高くなるのに対し,高齢群における同種前科ありの者の占める割合は,65歳から69歳の者が40.4%と最も高く,年齢層が上がるにつれて,その割合は低くなる。

7-4-3-3図 傷害・暴行事犯者の前科の有無別構成比
7-4-3-3図 傷害・暴行事犯者の前科の有無別構成比
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(2)傷害・暴行事犯者の犯行態様等

ここでは,高齢群と非高齢群を比較し,高齢の傷害・暴行事犯者の犯行態様等の特徴を明らかにする。

ア 犯行態様・動機

7-4-3-4図は,傷害・暴行事犯者の犯行場所(重複計上による。)を見たものである。高齢群,非高齢群共に,「道路上」が最も多く,次いで電車・バス等の「交通機関」(駅や停留所を含む。)が多い。また,高齢群は,非高齢群と比べ,被害者の同居の有無を問わず「加害者方」が多いのに対し,「飲食店」は少なかった。

7-4-3-4図 傷害・暴行事犯者の犯行場所
7-4-3-4図 傷害・暴行事犯者の犯行場所
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7-4-3-5図は,傷害・暴行事犯者の犯行方法(重複計上による。)及び凶器使用状況を見たものである。高齢群,非高齢群共に,「拳で殴る」が最も多く,4割以上を占めた。また,高齢群は,非高齢群と比べ,「蹴る・踏みつける」,「押す・突き飛ばす・引き倒す・転落させる・投げ飛ばす」といった犯行方法が少なかった。

凶器使用状況を見ると,高齢群は,凶器が刃物であるか否かに関わらず,凶器使用ありの占める割合が低い。

7-4-3-5図 傷害・暴行事犯者の犯行方法・凶器使用状況
7-4-3-5図 傷害・暴行事犯者の犯行方法・凶器使用状況
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7-4-3-6図は,傷害・暴行事犯者の被害者との関係(重複計上による。)を見たものである。高齢群,非高齢群共に,「面識なし」が最も多く,約7割を占めた。また,高齢群は,非高齢群と比べ,「配偶者」が多いのに対し,犯行場所に勤務する「店員・職員」(駅員や量販店の警備員等を含む。)や「知人」,「交際相手」は少なかった。なお,高齢群,非高齢群共に,被害者が「親」である者はいなかった。

7-4-3-6図 傷害・暴行事犯者の被害者との関係
7-4-3-6図 傷害・暴行事犯者の被害者との関係
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7-4-3-7図は,傷害・暴行事犯者の犯行動機・背景(重複計上による。)を見たものである。高齢群,非高齢群共に,「かっとなって」が最も多く,次いで「恨み・不満」となっている。また,高齢群は,非高齢群と比べ,「家庭内トラブル」が多いのに対し,「恋愛トラブル」,「金銭トラブル」及び「暴力団関係トラブル」(暴力団の示威行為等をいう。)のいずれも少なく,高齢群では,財産犯罪等に伴う「金銭等目当て」やDV等の「その他被害者のコントロール」(財産犯罪や性犯罪以外での被害者に対する支配を目的とするものをいう。)に該当する者はいなかった。

7-4-3-7図 傷害・暴行事犯者の犯行動機・背景
7-4-3-7図 傷害・暴行事犯者の犯行動機・背景
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イ 被害者の特徴

傷害・暴行事犯者について,高齢者又は児童(18歳未満の者をいう。以下この節において同じ。)の被害者の有無別構成比を見ると,7-4-3-8図のとおりである。高齢群は,非高齢群と比べ,高齢者又は児童の被害者がいる者の占める割合が高く,高齢群全体の2割以上を占めた。

7-4-3-8図 傷害・暴行事犯者の高齢者・児童の被害者の有無別構成比
7-4-3-8図 傷害・暴行事犯者の高齢者・児童の被害者の有無別構成比
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7-4-3-9図は,傷害・暴行事犯者による,本件と同一の被害者等に対する本件以前の認知されていない傷害・暴行事案の有無別構成比を見たものである。高齢群は,非高齢群と比べ,本件と同一の被害者等に対し,本件以外にも犯罪行為に相当する傷害・暴行事案(例えば,本件被害者への配偶者間暴力や,本件被害者の連れ子に対する児童虐待等)に及んでいる者の占める割合が低く,被害者等への暴力が繰り返される中での犯行は少ないことがうかがえた。

また,犯行の計画性について見ると,非高齢群では,計画性ありの者は10人(10.1%)であったのに対し,高齢群では,計画性ありの者はおらず,高齢群による犯行は,いずれも機会的・突発的なものが多いことがうかがえた。

7-4-3-9図 本件以前の認知されていない傷害・暴行事案の有無別構成比
7-4-3-9図 本件以前の認知されていない傷害・暴行事案の有無別構成比
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ウ 高齢の傷害・暴行事犯者の類型

高齢群の傷害・暴行事犯者について,被害者との関係及び凶器使用の有無により類型化を行うとともに,各類型について犯行動機及び前科の有無を見ると,7-4-3-10図のとおりである。

まず,被害者と面識ありの者について,被害者との関係別に犯行動機を見ると,「T 親族」類型は,隣人・知人といった「U 親族以外」類型と比べ,恨み・不満を動機とする者の占める割合は低く,そうした背景なく本件時に「かっとなって」の怒りから犯行に及んだ者の占める割合が高い。また,類型別に前科の有無を見ると,「T 親族」類型では,前科なしの者が9割近くを占めるのに対し,「U 親族以外」類型では,前科ありの者が過半数を占め,特に同種前科ありの者が約4割を占めた。

次に,被害者と面識なしの者について,凶器使用の有無別及び被害者との関係別に犯行動機を見ると,「V 凶器あり」類型では,恨み・不満を動機とする者の占める割合が高いのに対し,凶器使用のない「W 高齢者・児童(13歳未満)」類型及び「Y その他面識なし」類型では,「かっとなって」の怒りを動機とする者の占める割合が高く,凶器使用のない「X 店員・職員」類型では,逮捕逃れ等,怒りや恨み・不満を伴わず犯行に及んだ者の占める割合が高い。また,類型別に前科の有無を見ると,同種前科ありの者の占める割合は「V 凶器あり」類型が最も高く,半数を占めており,次いで凶器使用のない「X 店員・職員」類型,「W 高齢者・児童(13歳未満)」類型,「Y その他面識なし」類型の順であった。

7-4-3-10図 高齢の傷害・暴行事犯者の類型別人員等
7-4-3-10図 高齢の傷害・暴行事犯者の類型別人員等
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(3)同種前科のある高齢の傷害・暴行事犯者の特徴

ここでは,高齢群と非高齢群の比較に加え,高齢群の中でも同種前科の有無別に比較しながら,粗暴な犯罪を繰り返す高齢の傷害・暴行事犯者の特徴を明らかにする。

ア 犯行態様等の特徴

7-4-3-11図は,傷害・暴行事犯者の犯行時の飲酒の有無別構成比を見たものである。高齢群は,非高齢群と比べ,犯行時飲酒ありの者の占める割合は低い。しかし,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者では,同種前科なしの者と比べ,犯行時飲酒ありの者の占める割合が顕著に高く,約6割に上る。

7-4-3-11図 傷害・暴行事犯者の犯行時飲酒の有無別構成比(同種前科の有無別)
7-4-3-11図 傷害・暴行事犯者の犯行時飲酒の有無別構成比(同種前科の有無別)
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7-4-3-12図は,傷害・暴行事犯者の取調べや公判段階の言動等で見られた,本件に係る暴力を正当化する態度の有無別構成比を見たものである。高齢群は,非高齢群と比べ,暴力を正当化する態度あり(例えば「殴られても仕方がないような態度を被害者がとった」,「口で言っても分からないので体で分からせるためだった」といった供述が見られるなど)の者の占める割合は低い。しかし,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者では,同種前科なしの者と比べ,暴力を正当化する態度ありの者の占める割合が高く,約2割に上る。

なお,暴力団所属(関与)歴(犯行時又はそれ以前に,暴力団構成員,準構成員又は周辺者であった場合をいう。)について見ると,高齢群では,同種前科なしの者のうち所属(関与)歴ありの者は1人(1.5%)であったのに対し,同種前科ありの者のうち所属(関与)歴ありの者は7人(21.9%)であった。

7-4-3-12図 傷害・暴行事犯者の暴力を正当化する態度の有無別構成比(同種前科の有無別)
7-4-3-12図 傷害・暴行事犯者の暴力を正当化する態度の有無別構成比(同種前科の有無別)
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イ 生活状況等の特徴

傷害・暴行事犯者の犯行時の生活状況等を見たものが,7-4-3-13表である。

居住状況では,高齢群は,非高齢群と比べ,単身居住の者の占める割合が高いが,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者の4分の3が単身居住であるのに対し,同種前科なしの者では,単身居住の者の占める割合は非高齢群と同程度であった。また,同種前科なしの者では,配偶者(内縁・交際相手を含む)と同居していた者が4割以上に上り,配偶者以外の家族と同居していた者を合わせると,過半数を占めた。

婚姻状況では,高齢群は,非高齢群と比べ,婚姻歴なしの者の占める割合が低い。さらに,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科なしの者では,半数近くが婚姻継続中の者であったのに対し,同種前科ありの者では,配偶者と離死別状態にある者が半数を占め,婚姻継続中の者は2割を下回った。

就労状況では,高齢群は,非高齢群と比べ,無職者の占める割合が高く,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者において,同種前科なしの者と比べ,無職者の占める割合がより高かった。

生活保護受給の有無では,高齢群は,非高齢群と比べ,受給ありの者の占める割合が高いが,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者の約半数が生活保護を受給しているのに対し,同種前科なしの者では,受給ありの者の占める割合は1割を下回った。

身体的・精神的問題の有無では,高齢群は,非高齢群と比べ,身体的問題のある者の占める割合が高く,精神的問題のある者の占める割合が低い。また,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者では,精神的問題のある者はいなかった。

7-4-3-13表 傷害・暴行事犯者の生活状況(同種前科の有無別)
7-4-3-13表 傷害・暴行事犯者の生活状況(同種前科の有無別)
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以上のように,同種前科のある高齢の傷害・暴行事犯者では,配偶者と離死別している者,無職者や生活保護受給者,単身生活を送っている者の占める割合が高い。そこで,単身居住かつ無職であり,仕事をしていないため同僚等との接触もなく,家族・知人等との交流もないような状態を「対人交流なし」と定義して,傷害・暴行事犯者の犯行時の対人交流の有無別構成比を見たものは,7-4-3-14図のとおりである。高齢群は,非高齢群と比べ,対人交流なしの者の占める割合が高いが,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者では約4割が対人交流なしであるのに対し,同種前科なしの者では,対人交流なしの者の占める割合は約1割であった。

7-4-3-14図 傷害・暴行事犯者の対人交流の有無別構成比(同種前科の有無別)
7-4-3-14図 傷害・暴行事犯者の対人交流の有無別構成比(同種前科の有無別)
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ウ 裁判内容

傷害・暴行事犯者の裁判内容を見ると,7-4-3-15図のとおりである。高齢群は,非高齢群と比べ,全部実刑・一部執行猶予に処せられた者の占める割合が若干高く,単純全部執行猶予(保護観察の付かない全部執行猶予)の者の占める割合が低い。さらに,高齢群を同種前科の有無別に見ると,同種前科ありの者では,同種前科なしの者と比べ,全部実刑・一部執行猶予の者の占める割合が高いものの,同種前科ありの者全体の4分の3を罰金が占めており,同種前科なしの者では,罰金の者の占める割合がより高かった。なお,高齢群,非高齢群共に,保護観察付全部執行猶予の者はいなかった。

7-4-3-15図 傷害・暴行事犯者の裁判内容別構成比(同種前科の有無別)
7-4-3-15図 傷害・暴行事犯者の裁判内容別構成比(同種前科の有無別)
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