前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

平成30年版 犯罪白書 第7編/第1章/コラム1

コラム1 公開シンポジウム〜超高齢社会に向かう刑事司法

平成30年2月9日,法務省大会議室において,日本刑事政策研究会等の5者共催による公開シンポジウム「超高齢社会に向かう刑事司法」が開催された。

野村俊明日本医科大学教授が,「高齢受刑者の現状とその支援」というテーマで基調講演を行い,刑事施設に医師として勤務した経験等に基づいて,高齢受刑者の中には,認知機能の低下を疑われる者が相当程度おり,認知症と診断できる者もいること,高齢になって初めて受刑する者,長期刑判決を受け刑事施設内で高齢化する者,累犯の高齢受刑者の3者が混在していること,その中で特に罪種として多い窃盗の累犯者に関しては,出所後の引受先がない者が多いことなどを指摘した。その上で,世界と比べて突出して割合が高い日本の高齢受刑者の問題に対処するためには,当面,刑事施設において個人の特性に対応した処遇を行うべく,認知機能に関する定期的なスクリーニングを行ったり,社会復帰を目指す者には生活能力の向上につながる処遇をする等の方策が考えられ,そのための施設とマンパワーの拡充が必要であること,刑事施設に収容する意義が乏しいと思われる者については,いわゆる入口支援等により刑事施設に入れない措置や,刑の執行停止による刑事施設からのダイバージョンを考える必要性を訴えた。

引き続くパネルディスカッションでは,法務省矯正局成人矯正課長が,刑事施設内における高齢受刑者の処遇の現状について,最高検察庁刑事政策推進室長が,高齢犯罪者に対するいわゆる入口支援の現状について,法務省保護局観察課長が,高齢受刑者等に対する特別調整の現状,更生緊急保護の重点実施の試行状況等をそれぞれ報告した。続いて鷲野明美健康科学大学准教授が,罪を犯した高齢者の社会復帰を支える福祉の現状と課題と題し,地域包括支援センター等における高齢犯罪者支援の実状や,福祉が「その人らしい生活の実現」を目的としており,再犯防止を目指す司法とは異なる視点を持ちつつ司法との連携を進めていることなどを紹介した。太田達也慶應義塾大学教授は,比較的軽微な罪を犯した高齢者に対しては,微罪処分等により刑事手続から外すダイバージョンだけでは再犯防止にはつながらず,犯罪の背景に社会的孤立がある者は福祉に,認知症等の病気の問題がある者は医療につなげるなどの方策が必要であること,今後は仮釈放・保護観察をより積極的に活用することや起訴猶予に条件を付すことについても検討すべきことなどを述べた。その上で,フロアからの質問も踏まえつつ,議論が行われ,刑の執行停止の活用や入口支援・一部執行猶予制度の運用の拡大,刑事施設における開放的処遇,刑務官の改善指導への更なる関与,微罪処分後の再犯防止策,高齢犯罪者に対する援護実施者の明確化,高齢者に対する就労支援の拡充等について,活発な議論が行われた。

最後に,太田教授が,「早期介入・早期支援」をキーワードに,初回検挙時・初回受刑時など,早い段階で確実に更生への働きかけをして早期の社会復帰・支援に結び付けていくこと,刑事手続や刑事施設収容のより早い段階で高齢者の特性や認知症等に関するアセスメントを行い,それに応じた対応や処遇を実施していくことなどの重要性を指摘して総括した。

シンポジウムの様子
シンポジウムの様子