平成30年9月15日現在,我が国の総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合(高齢化率)は,28.1%と世界最高水準であり,70歳以上が20.7%と初めて20%を超えた(総務省統計局の人口資料による。)。今後も,国立社会保障・人口問題研究所が人口推計を出している2065年まで,更に高齢化が進行すると予測されている。
我が国で認知される犯罪がここ15年減り続けている一方,刑法犯検挙人員に占める高齢者の比率は,平成10年の4.2%から29年の21.5%へと上昇し,同時期の高齢化率の上昇(16.2%から27.7%)の幅を大きく上回っている。刑事施設に入所する受刑者の高齢化も進み,高齢出所受刑者の2年以内再入率は非高齢者と比べて高く,再犯防止対策の観点からも,高齢者犯罪への対応は急務である。
次頁のコラム1で,平成30年2月に開催された「公開シンポジウム〜超高齢社会に向かう刑事司法」を紹介しているが,高齢犯罪者をめぐる深刻な情勢と対処の重要性は,法務行政関係者や学識者に共通の認識となりつつある。
平成20年版犯罪白書の特集「高齢犯罪者の実態と処遇」において,高齢犯罪者増加の一因として彼らが抱える社会的孤立等を指摘し,総合的対策の必要性を提言して10年が経過した。本白書では,「進む高齢化と犯罪」を特集し,社会の高齢化や高齢者犯罪・高齢犯罪者の現状等を概観するとともに,高齢者による殺人等に係る特別調査の結果も踏まえ,高齢者犯罪と高齢犯罪者をめぐる実情と課題を分析し,高齢犯罪者に対する支援の取組や諸外国の例も紹介しながら,今後,高齢者犯罪の防止等に向けた施策を更に検討するための基礎資料を提供することとする。
本編の構成は,次のとおりである。
まず,第2章では,背景事情として,我が国の高齢化の進展と高齢者をめぐる社会情勢の変化を国際比較も交えて示し,高齢者の意識についても取り上げる。
第3章では,警察,検察,裁判,矯正,更生保護の各手続段階において高齢者犯罪・高齢犯罪者の動向等を概観し,出所受刑者の再犯についても節を分けて分析する。高齢者の犯罪被害についてもここで扱う。
第4章では,ここ20年間で高齢者による事案が増えた,あるいは犯罪者の中に占める高齢者の比率の上昇が見られた罪種として窃盗,殺人,傷害・暴行,交通犯罪の四つに着目し,法務総合研究所が実施した特別調査の結果等を用いて罪種ごとに高齢犯罪者の特徴を解明する。
第5章では,高齢犯罪者に対する処遇・支援について見ていく。この10年における画期的な変化の一つは,高齢犯罪者を対象とした体系的な福祉的支援の施策が導入されたことである。刑事施設を出た後の社会復帰を見据えて在所中から支援を行う,いわゆる「出口支援」施策の先駆けとなった平成21年の「特別調整」の実施開始以来,社会内及び刑事施設在所中の福祉的支援についても,更に起訴猶予者等を対象とする刑事司法の入口段階での支援(いわゆる「入口支援」)についても,その拡充の動きが広がりを見せている。この章ではこれらの現状を紹介する。
また,我が国の今後進むべき方向性を検討するに当たり,比較的高齢化が進んでいる他国における高齢者犯罪の現状や高齢犯罪者処遇に係る制度や実践例を把握し参照することが有用と考えられることから,法務総合研究所が行った韓国,ドイツ及びイタリアにおける実地調査の結果を,コラムとしてこの章で取り上げる。
最後に,第6章で,高齢者と犯罪をめぐる現状と課題を総括し,高齢者犯罪の防止等に向けて提言を行う。
なお,これまで法務総合研究所が行った高齢者に関する主要な研究は,7-1-1表のとおりであり,このうち昭和59年版及び平成3年版犯罪白書においては60歳以上の者を,それ以外の研究においては65歳以上の者を,高齢者と定義している。