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平成28年版 犯罪白書 第5編/第1章/第1節/コラム

コラム 犯罪統計における「再犯」とは?−再犯率と再犯者率の違い−

再犯は,一般に,一度罪を犯した者が再び罪を犯すことをいうが,犯罪統計においては,再犯に関連する指標が,その目的に応じて異なる意味・内容で用いられている。ここでは,誤解を招きやすい「再犯率」と「再犯者率」の違いについて説明した上で,「再犯率」の意味を正確に理解する上で重要なポイントについても考えてみたい。

まず,「再犯率」は,犯罪により検挙等された者が,その後の一定期間内に再び犯罪を行うことがどの程度あるのかを見る指標である。これに対し,「再犯者率」は,検挙等された者の中に,過去にも検挙等された者がどの程度いるのかを見る指標である。「再犯率」が,いわば将来に向かってのものであるのに対し,「再犯者率」は,過去に遡るものであると考えると分かりやすい。

次に,「再犯率」の意味を正確に理解するのに重要なポイントについて考えてみる。再犯率に関する調査では,調査の目的に応じて,<1>「何をもって(刑事手続のどの段階で)再犯とみなすのか」,<2>「どのような集団を対象に調べるのか」,<3>「いつからいつまでの期間を調べるのか」といった観点の違いがあるため,同じ「再犯率」という言葉が用いられていても,その意味するところや数値は異なってくる。

<1>の再犯の定義については,例えば,出所後に新たに犯した罪により,再び検挙されること,再び有罪判決を受けること,再び刑事施設に収容されることなどがあり,どれを基準とするかにより「再犯率」の意味は異なってくるし,数値も変わってくる。また,罪名を問わず,再び罪を犯せば再犯とみなすのか,同一又は同種の罪名の繰り返しに限定するのかによっても,「再犯率」の数値は変わってくる。

<2>の調査対象とする集団については,例えば,窃盗によって初めて検挙された者のみを対象とした場合と,窃盗によって2回以上受刑し,刑事施設を出所した者のみを対象とした場合とでは,調査対象の犯罪性向の強さが異なることから,「再犯率」も異なると予想される。そのため,「再犯率」という言葉を用いる場合には,どのような集団を対象にした数値であるのかを明らかにする必要がある。

<3>の追跡期間については,期間をどれだけ長く設けるかによって「再犯率」の数値が増減する。また,罪名によって再犯までの期間には長短があることが指摘されているところ,罪名ごとに,出所後のどの時期に再犯が集中しているのかを詳細に検討することは,再犯防止に向けた対策を考える上でも有用である。

いずれにせよ,現実には,刑事手続の各段階で収集されるデータには制約があるため,入手することができた各種資料の範囲内において再犯状況を探るほかない。犯罪白書では「再犯率」の一つの指標として「2年以内再入率」や「5年以内再入率」を用いており(詳細は本章第3節参照),これらは,ある年の刑事施設出所者のうち,出所後の一定期間内に,新たな罪を犯して刑事施設に再入所した者がどの程度いるかを把握するものである。

「再犯率」や「再犯者率」は,どちらも再犯の実態を把握する上で重要な概念であるものの,その意味するところは異なり,その数値を読み解く上では正確な理解が求められる。このように,再犯に関連する指標を用いる際には,その定義や計算方法について的確に把握しておくことが欠かせない。

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