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平成28年版 犯罪白書 第5編

第5編 再犯・再非行〜再犯の現状と対策のいま〜
はじめに

法務総合研究所においては,これまで再犯防止のための対策が我が国の刑事政策上の重要課題であるという認識の下,再犯の実態の解明とその対策に関する研究に取り組んできた。例えば,平成19年版犯罪白書では,戦後約60年間にわたる犯歴記録の分析結果等を基に,全犯罪者のうちの約3割に当たる再犯者によって約6割の犯罪が行われていることを示し,再犯防止対策の必要性と重要性を指摘した。また,21年版犯罪白書では,同一罪名の再犯を繰り返す者の多い窃盗及び覚せい剤事犯者を中心に,再犯の実態や要因等について検討を加えた。

再犯防止対策については,平成24年7月に,犯罪対策閣僚会議が「再犯防止に向けた総合対策」を策定し,対象者の特性に応じた指導及び支援の強化等を重点施策として掲げるとともに,関係諸機関の連携の下で各施策を着実に実施することとした。また,同総合対策では,刑務所出所者及び少年院出院者の出所・出院年を含む2年間における刑務所等に再入所等する者の割合(2年以内再入率)について,過去5年の平均値(刑務所については20%,少年院については11%)を基準として,33年までに20%以上減少させるという数値目標が設定された。我が国の刑事政策において,このような数値目標が導入されたのは初めてのことである。同総合対策では,社会経済情勢等の犯罪をめぐる諸情勢の変化,施策の推進状況や目標達成状況等を踏まえ,おおむね5年後(平成29年頃)を目途に見直しを行うこととされている。

同総合対策の見直しに当たっては,近時の再犯に関する動向を詳細に分析するとともに,これまでの取組を整理し,現段階の達成状況と残された課題について,客観的な指標を踏まえた上で検討する必要がある。また,犯罪や非行をした者といっても,犯した罪の種類,その者の年齢や境遇等,それぞれの特性は異なり,多様であるため,その特性に応じた施策を実施すべきところ,効果的な対策の策定には,各類型の犯罪者の実態を適切に把握することが欠かせない。

そこで,本編では,同総合対策の見直しに向けた検討に資する基礎資料を提供するため,再犯の動向について各種統計資料を使って多角的な分析を行うとともに,現在実施されている再犯防止のための施策・取組やこれまで法務総合研究所が行ってきた調査研究から得られた知見を整理して概観することとした。

本編の構成は次のとおりである。

第1章では,警察,検察,裁判,矯正及び更生保護の各段階における再犯の動向を分析し,再犯の実態を詳細に検討することを通じて,今後,一層重点的・集中的に対策を推進する必要のある分野を明らかにするための基礎資料を提示する。

第2章では,検察,矯正及び更生保護の各段階において実施されている各種施策やそれぞれの現場における具体的な取組について,同総合対策に示されている六つの類型ごとに紹介する。加えて,これら重点的な指導や支援が求められる各種の犯罪者等について,法務総合研究所が行った過去の調査研究(犯罪白書や法務総合研究所研究部報告(以下「研究部報告」という。)については,いずれも法務省のホームページ上で公開されている。)を整理し,その犯罪の実態,再犯の状況や施策の有効性を含め,再犯防止対策を検討する上で有益と思われる知見を提示する。

第3章では,第1章で取り上げた分析結果のうち,同総合対策で数値目標が定められている刑務所出所者や少年院出院者の再入所(再入院)の状況に焦点を当てながら,今後重点を置くべき施策の方向性及び再犯防止に資する実証研究の在り方について考察する。