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平成27年版 犯罪白書 第6編/第3章/第3節

第3節 諸外国における地域社会での取組

諸外国における性犯罪者に対する再犯防止のための施策は,我が国においても導入,運用されている施設内及び社会内処遇における認知行動療法を基盤にした処遇プログラムのほか,特定の性犯罪者に対する不定期刑制度,社会治療施設への収容,情報登録・公表制度,受刑後も治療施設等へ収容する民事的収容制度等多岐にわたっている。また,国の施策の他に,民間が主体となって,児童に対する性犯罪を予防するための取組や,性犯罪で服役した刑務所出所者に対する支援活動が,地域社会における予防的取組として行われている。

以下では,性加害者処遇学会(Association for the Treatment of Sexual Abusers)の2014年の年次大会で収集した情報等を参考に,諸外国における性犯罪者に対する地域社会での取組事例を紹介することとする。

なお,性加害者処遇学会は,1984年に設立された非営利の国際的・学際的な組織であり,世界各国の心理学者,ソーシャルワーカー,精神科医,法律家等,多岐にわたる専門分野の研究者や実務家で構成されている。学会の目的は,性加害(性犯罪より広い概念として捉えている。)に関する調査研究,研修,会員同士の学び合い等を通じて,性加害の防止に向けた,科学的な根拠に基づく施策や実務を推進することにあり,近年では,刑事司法機関に係属した性犯罪者の再犯防止だけでなく,将来,性加害に及ぶリスクのある者に対する予防に向けた活動にも着目している。

コラム1 児童に対する性加害を予防するための取組

「やめるのは今!」(Stop It Now!)は,児童に対する性加害を予防するための活動を行う民間の組織であり,1992年に米国で始められ,その後,英国やオランダに広がっている。「やめるのは今!」は,児童に対する性加害を予防可能な社会問題として位置付け,当事者(性加害には及んでいないものの児童に対して性的な関心を抱いている潜在的な性加害者や,検挙されていない性犯罪者)と接触し,その行動の変化に向けた支援を提供することを通じて,児童に対する性加害を未然に防ぐことを目指している。

具体的な活動としては,啓発キャンペーン等を通じて,一般市民に児童に対する性加害に関する情報を提供したり,関心を高めたりする活動を行っているほか,匿名での相談が可能な電話相談窓口を開設し,無料で相談を受け付けている。

英国及びアイルランドにおいては,電話相談の利用者が年々増加しており,電話相談窓口が開設された2002年から2012年までの間で3万件以上の相談を受け付けている。その利用者を見ると,当事者や,その家族や友人のほか,専門家からの相談もあるという。これら相談に対しては,その内容に応じて,助言や他の専門的な支援につなげるほか,繰り返しの電話相談を促すことで継続的な支援に取り組んでいる。

コラム2 性犯罪で服役した刑務所出所者に対する支援活動

「支援と責任の輪」(Circles of Support and Accountability)は,1994年にカナダで始められた市民ボランティアによる性犯罪者の監督・更生支援活動であり,英国や米国でも同様の取組が行われている。その目的は,性犯罪者が再犯せず,かつ,有意義で責任のある人生を送るよう支援することにあり,地域社会の市民ボランティア,専門家及び関係機関による監督指導と生活援助が継続的に行われる。こうした取組は,性犯罪者を地域社会から疎外するのでなく,再参入を促すことが,地域社会の安全を高めることにつながるという考えに拠っている。

具体的な活動としては,刑務所から出所した再犯リスクの高い性犯罪者(以下「コア・メンバー」という。)1人を,おおむね4人から6人の訓練を受けた市民ボランティアが担当する。こうした市民ボランティアがコア・メンバーを取り囲むイメージで,「内側の輪」を形成し,コア・メンバーからの相談に応じるとともに,様々な生活上の支援をする。特に,刑務所から出所直後の数か月間は,主担当の市民ボランティアが,ほぼ毎日,コア・メンバーと接触し,悩み事を聞いたり,生活支援をしたりする。また,市民ボランティアは,コア・メンバーの社会内処遇に携わる「外側の輪」と呼ばれる専門家(警察官,保護観察官,心理士等)から助言や支援を受ける。

このように,内側と外側の輪の二重にコア・メンバーを取り囲む支援期間は,コア・メンバーの問題性等により長短はあるものの,カナダでは,最低でも1年間は続けられるという。