本編第2章第2節2項(5)(P225)で述べたとおり,警察庁は,万引きの防止に関して,平成22年9月に万引き被害の届出の徹底を要請する旨の通達を発出した上,同年10月には,関係機関・民間団体と連携して「万引き防止官民合同会議」を開催し,万引きを許さない社会気運の醸成や規範意識の向上等を図るため,万引き防止対策の全国的な展開を図ってきた。全国各地においても,警察や行政,民間団体等の合同により,万引き防止に向けた協議会等が定期的に開催されており,地域の実情に応じた様々な対策が講じられてきている。
例えば,香川県内においては,平成15年から21年までの間,人口千人当たりの万引きの認知件数が全国最多を記録するなどの憂慮すべき事態が続いていた。その間,香川県警察は,防犯ボランティア団体等との官民連携での様々な対策を講じてきたが,22年からは,香川大学と連携し,効果的な万引き防止対策を多角的に検討すべく,被疑者のほか,一般の青少年やその保護者,高齢者,被害を受ける店舗関係者等を対象とした意識調査を実施した。その上で,世代によって異なる万引きへの意識や動機,背景事情等を分析し,その特性に応じた啓発用DVDを制作するなどして,万引き防止に向けた啓発活動を実施している。また,前記の調査結果を基に,香川県警察と香川大学は,経験豊富な万引き警備員の協力も得て,店舗向けの万引き防止対応マニュアルを作成し,小売店関係者に対して,万引きのされにくい店作りの一環として,防犯設備の設置方法,商品の陳列方法等について指導するとともに,店内における積極的な声掛け運動を推進しており,その結果,一部の小売店においては,万引き被害が減少しただけでなく,売上げの向上にもつながった旨の報告がなされるなど,官民学一体となった万引き防止の総合対策が展開されている。
また,福島県内においては,万引き被疑者に占める高齢者の割合が過去10年間で2倍以上に上昇したことなどを受け,福島県警察は,老人クラブ等と連携し,防犯ボランティアや町内会長等の社会的な立場に立って活動している高齢者を「万引き防止アドバイザー」として委嘱し,同アドバイザーが主として高齢者に向けた広報活動やスーパー・マーケット等でのパトロール活動を実施するなどして,高齢者による万引き防止対策が推進されている。
このような全国各地における官民連携での取組は,第一義的には万引き被害の防止を目的とするものであるが,当然ながら,万引き事犯者の再犯防止の効果をも有するものである。