法務大臣は,平成23年5月,法制審議会に対し,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画する方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について諮問を行い,同審議会においては,新たな刑事司法制度の在り方について,証拠収集手段を適正化・多様化するとともに,より充実した公判審理を実現することを検討指針として調査審議が行われ,26年9月,法務大臣に対する答申がなされた。
この答申においては,新たな刑事司法制度を構築するために必要な法整備の内容として,<1>身柄拘束中の被疑者を裁判員制度対象事件又は検察官独自捜査事件について取り調べるときは,その取調べの全過程の録音・録画を義務付けることなどを内容とする取調べの録音・録画制度を導入すること,<2>一定の財政経済関係犯罪及び薬物銃器犯罪を対象として,検察官が,被疑者・被告人との間で,弁護人の同意の下,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述等をする一方,検察官が不起訴や特定の求刑など一定の行為をすることを合意できることとする捜査・公判協力型協議・合意制度や,裁判所の決定により,免責を与える条件の下で証人に自己に不利な事項の証言を義務付けることができることとする刑事免責制度を導入すること,<3>通信傍受の対象犯罪を拡大し,また,記録の改変その他の不正ができない機器を用いることにより,通信事業者の施設以外の場所で,立会人なく傍受を実施できるようにすることなどを内容とする通信傍受の合理化・効率化を行うこと,<4>裁量保釈の判断に当たっての考慮事情を明記することを内容とする身柄拘束に関する判断の在り方についての規定を新設すること,<5>被疑者国選弁護制度の対象事件を全勾留事件に拡大することなどを内容とする弁護人による援助の拡充を行うこと,<6>現行の証拠開示制度の利用に資するよう,被告人側の請求があるときは,検察官に,保管証拠の一覧表の交付を義務付ける制度を導入することなどを内容とする証拠開示制度の拡充を行うこと,<7>一定の場合に,証人尋問が行われている法廷とは別の裁判所との間でビデオリンク方式による証人尋問をできることとすることなどを内容とする犯罪被害者等及び証人を保護するための方策を導入すること,<8>証人の不出頭等の罪の法定刑の引上げなどを内容とする公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等を導入すること,<9>即決裁判手続の申立て後に被告人側の応訴態度の変化を理由として同手続による審判が行われないこととなった場合について,公訴取消し後の再起訴制限を緩和することを内容とする自白事件の簡易迅速な処理のための方策を導入することが掲げられ,それぞれ具体的な制度内容が示されている。
平成26年9月末日現在,この答申を受け,法務省において法案提出に向けた作業が行われている。