従前の外国人登録制度では,我が国に90日以上在留する外国人は自身の身分事項や居住地等の情報を居住する市町村で登録することとなっており,不法滞在者であっても申請があれば外国人登録が行われ,外国人登録証明書が交付されていたことから,同証明書が銀行口座の開設や携帯電話の契約等に使用され,不法滞在者の在留継続を容易にしてきたとの指摘がなされていた。また,近年になり,新たに入国し在留する外国人が増加するに伴い,正確な外国人登録の申請を行わなかったり,申請をせずに頻繁に転居する外国人が少なからず現れるようになった結果,市町村において,外国人の居住実態や外国人児童の就学実態等を正確に把握することが困難となり,外国人に対する地方公共団体における適切な行政サービスの提供という観点からも問題が生じていた。さらに,在留期間の途中で,在留資格に影響する事情の変更(例えば,就労活動に係る在留資格を有する者の退職,留学の在留資格を有する者の退学,日本人の配偶者等や永住者の配偶者等の在留資格を有する者の離婚等)があった場合に,当該外国人にその旨届け出る義務がなかったため,在留資格と在留状況が一致しない状態が継続してしまうなどの適切な在留管理を図る上での問題も生じていた。
こうした問題に対処するため,出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律(平成21年法律第79号)及び住民基本台帳法の一部を改正する法律(平成21年法律第77号)により,入管法,住民基本台帳法等が改正されるとともに,外国人登録法が廃止された(平成24年7月9日施行)。これにより,在留管理の機能を入管法上,一元的に定めることとされ,適法な在留資格をもって我が国に中長期間在留する外国人を対象として,法務大臣が在留管理に必要な情報を継続的に把握することとなった(新しい在留管理制度)。
新しい在留管理制度では,我が国に中長期間在留する外国人に対し,上陸許可,在留期間更新許可,在留資格変更許可等に伴い,在留カードが交付される。在留カードを所持する中長期在留者が市町村において住居地の届出等を行うと,その情報は市町村長から法務大臣に通知される。また市町村では,在留資格や在留期間満了日等の情報が記載された住民票が作成される。その後,在留資格変更許可や在留期間更新許可等がなされた場合には,それらの情報が法務大臣から市町村長へ通知され,当該外国人の住民票に反映されることで,外国人住民に対する各種行政サービスの提供にも活用されている。なお,この法務省(入国管理局)と市町村の情報連携により,従前必要とされた在留期間更新等があった場合の外国人本人による市町村長への申請は不要となった。
また,同制度では,在留期間中に,例えば,就労活動に係る在留資格を有する者の退職,留学の在留資格を有する者の退学等の特定の事項に変更があった場合,外国人本人やその留学先学校,就労先企業等の所属機関において,当該変更事項を地方入国管理局へ届け出る制度が導入されるとともに,届出に係る情報の正確性を確保するため,入国審査官,入国警備官等が届出事項について事実の調査をすることができることとなり,法務大臣が外国人の在留状況を正確かつ継続的に把握することができるようになった。中長期在留者が,住居地や就労先等に関し虚偽の届出をした場合や一定期間内に届出をしない場合は罰則の対象となるほか,正当な理由がなく定められた期間内に住居地の届出をしない場合や虚偽の住居地を届け出た場合は在留資格取消しの対象となる。「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」(平成20年12月策定)においても,新しい在留管理制度の効果的な運用を通じ,外国人の在留実態を確実かつ迅速に把握し,その情報を活用して,在留状況に疑義がある者に対しては調査を行い,不法滞在者・偽装滞在者等の摘発や在留資格の取消し等を積極的に実施することとしている。
新しい在留管理制度によって在留管理に必要な情報をより正確に把握できるようになったことに関連して,適法に在留する外国人の利便性を向上する趣旨から,在留期間の上限の引上げ,有効な旅券と在留カードを所持する外国人が1年以内に再入国する場合には,出国前に再入国許可を受けることなく元の在留資格で再入国できるようにするなどの措置も執られている。
外国人の入国及び在留の管理に関する施策の基本となるべき計画として法務大臣が定めた「第四次出入国管理基本計画」(平成22年策定)では,不法滞在者対策や新しい在留管理制度に関する方針のほか,我が国社会に活力をもたらす外国人の円滑な受入れについても定めている。例えば,学歴,職歴,年収,研究実績等の評価ポイントの合計が一定点数に達した者を高度人材外国人と認定して,出入国管理上の優遇措置を講ずる制度(24年5月開始),入国審査の待ち時間を短縮する自動化ゲートの利用拡大の推進等の観光立国実現に向けた取組,留学生の在籍管理を適切に行っている大学等からの申請における提出書類の簡素化や,大学等で身に付けた専門知識等を活用して就職を希望する留学生の在留資格変更手続の円滑化といった留学生の適正な受入れ推進のための取組等が掲げられている。また,研修・技能実習制度について,その適正化に向けた取組を進めることとされている。
研修・技能実習制度は,開発途上国の人材を育成することを目的とするが,近年,制度の趣旨を十分に理解せず,研修生等を低賃金労働者として扱うなどの問題が顕在化したことから,平成22年に新しい技能実習制度が導入され,実務を含む研修を行う場合は入国後1年目から雇用契約に基づいて技能等修得活動を行うこととして,実務研修生を労働関係法令の適用対象としたほか,監理団体(技能実習生の技能等修得活動の監理を行う営利を目的としない団体)による指導・監督体制の強化等によって,技能実習生の保護や制度運営の適正化等を図っている。入国管理局において,研修・技能実習に関し不適正な行為を行ったと認めてその旨の通知をした団体・業者等の受入れ機関数は,24年が197機関と,過去最多であった20年の452機関の半数以下となった(法務省入国管理局の資料による。)。
そのほか,二国間の経済連携協定(EPA)に基づき,インドネシアやフィリピンからの看護師・介護福祉士候補者の受入れが実施されている。