経済・社会の国際的な結び付きは,IT技術の驚異的発展等による人,物,金,情報等の国際的な流動の著しい加速化と,多国籍企業の活動領域の一層の拡大や,有価証券を始めとする金融取引のボーダーレス化や国家的属性を意識しない個人投資家の金融取引への参入等を経て,ますますその濃密度を増し,グローバル化の一途をたどっている。
我が国経済も,貿易規模は巨大なものとなり,また,企業の海外事業展開や,海外の証券取引所等を通じた世界市場での資金調達といったグローバルな市場経済への依存度は著しく高まっている。
これらを背景として,また,長期化した景気低迷とデフレからの脱出を図るために,国の成長戦略を掲げた「日本再興戦略」(平成25年6月閣議決定)では,グローバル化の推進と積極的な活用を重視し,「経済財政運営と改革の基本方針」(同月閣議決定)も,グローバル化を活かした成長として,「グローバル化を活用して持続的な成長を実現するためには,貿易と投資の双方の拡大を目指し,ヒト・モノ・カネが自由に行き来できる環境の整備,(中略)ビジネス環境の整備やグローバル人材・現地人材の育成等に取り組むことが重要」との認識を示している。これらを受け,各種の政策・施策が講じられ,あるいは模索されている。
他方,人,物,金,情報の国境を越えた流通を経たグローバル化の進展は,これら流通に乗じた犯罪を容易にするものでもあり,「国際化・越境化する犯罪」のリスクを増大するという負の側面を持つことは否定できない。これらに適切に対処することは,我が国が犯罪のグローバル化は許さないことを示すこととなり,経済を始めとする各分野におけるグローバル化活用による成長を後押しする上でも,安全で安心して暮らせる国を実現する上でも重要である。これに関し,最近10年間程度の国際社会の動きを見ると,様々な国際フォーラムの場等を通じて,国際的・越境的な側面が強い犯罪等を,各国に共通の問題であり国際社会が連携して取り組まなければならない課題であるとの認識が共有され,各国における刑事司法上の対応の標準化や様々な場面における国際協力の充実・強化等を求める取組が進められてきた。このような国際社会の動きや犯罪情勢の変化に呼応して,国内においても,罰則の強化や,国際協力面の各種施策の充実等が図られてきている。「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画の策定の基本方針について」(平成25年5月犯罪対策閣僚会議決定)は,サイバー犯罪対策,テロ対策,組織犯罪対策,不法滞在対策と外国人と共生できる社会等が新しい行動計画の重点取組分野とされるなど,犯罪の国際化・越境化をコントロール下に置くことを重点課題の一つとして認識しているものと考えられ,引き続き一層の取組の強化が見込まれるところである。
経済等の様々な分野でグローバル化が今後ますます進展すると予想される中,これを後押しするためには,現状と課題及びそれを踏まえた展望を総括し,一般の周知・理解を図り,その負の側面のリスクを低減することが重要である。
さらに,社会のグローバル化における負の側面の一つの表れである国内の外国人犯罪の情勢に目を向けると,外国人犯罪は,犯罪全体と同様に減少傾向にあるものの,検挙人員中に占める外国人の比率は,外国人犯罪が増加傾向にあった10年前頃からほぼ横ばいの状態にある。また,入国して犯行に及んだ上で本国に逃げ帰るいわゆるヒットアンドアウェイ型の来日外国人による犯罪に代わり,定住型外国人によるものが比重を増すなど,平成の初めころと比較すると,質的な変化があると思われる。もっとも,そうした質的な変化を踏まえた詳細な実態はこれまで十二分に明らかにされていたとは言い難い。また,退去強制事由に該当する外国人犯罪者の中にも,日本への定着性が高いなどの事情があることにより,刑事処分終了後も退去強制されずに国内での在留が認められる者もいる。それらの者が日本社会へ復帰するに当たっては,文化的背景ないし言語的能力等による困難に直面する場合も少なくないと推測され,再犯防止対策における新たな挑戦ともなり得る。
これに関し,社会保障,教育,地方行政等の分野では,外国人集住都市等を始めとして多文化共生の取組が進みつつあるが,定住外国人と共生する社会の在り方を踏まえた有効な再犯防止策については,これまで必ずしも十分な議論がされてきたとは言い難い状況にある。
これらのことを踏まえ,本年版犯罪白書では,本編において,「グローバル化と刑事政策」と題し,グローバル化に対応したこれまでの取組の成果を紹介するとともに,刑事政策上の課題について,今後の有効な対策を探る観点から,その前提となる実態把握に資する基礎資料を提供することを目的とした。
本編の構成は次のとおりである。
まず,第2章において,グローバル化の現状を明らかにした上で,グローバル化に伴う犯罪の動向を分析・紹介する。
次に,第3章において,特別調査の結果に基づき,外国人犯罪者の実態を,成人(受刑者),少年(少年院在院者)のそれぞれについて明らかにする。
続いて,第4章において,グローバル化に対応した刑事政策等の取組について,出入国管理等における対応,刑事司法における国際協力の状況,刑事手続・犯罪者処遇における配慮,多文化共生に向けた取組にわたって紹介する。
以上を踏まえ,第5章において,グローバル化における刑事政策の現状と課題を総括し,将来に向けた展望を試みる。