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 昭和40年版 犯罪白書 第二編/第二章/二 

二 婦人補導院における処遇

 婦人補導院は,昭和三三年三月,売春防止法の一部改正にともない,東京,大阪,福岡の三か所に設けられた国立の施設であり,売春防止法第一七条により補導処分の言渡しを受けた満二〇才以上の女子を収容して,これを更生させるために,必要な補導を行なうことを目的としている。したがって,婦人補導院における処遇は,被収容者が,社会生活に適応するために必要な生活指導と職業の補導,さらに,その更生の妨げとなる心身の障害に対する医療を行なうことに,その重点がおかれている。
 補導処分による収容期間は,売春防止法第一八条によって,六月と規定されている。これは,すべての被収容者を完全に更生させるためには,必ずしも,十分な期間とはいえないが,同じく補導処分の対象者が,売春防止法第五条の勧誘等の罪により,六月以内の懲役に処せられ,その執行を猶予されたものが,そのすべてであることから,たとえ本人の保護,更生のためとはいえ,法定刑以上に長期の身柄拘束は,好ましくないとの見解によるものとされている。
 最近五年間における,年間新収容者数の推移は,II-74表のとおり,昭和三五年を頂点として,漸減の傾向にあり,昭和三九年の入院者数は,三五年の六一%にすぎない。

II-74表 婦人補導院入出院状況および年末収容人員累年比較(昭和35〜39年)

 婦人補導院では,新入院者に心身両面から精密な検診を行ない,まず身体面では,性病その他の疾病により,療養を要するものを区別し,更に精神面では,おおむね正常なものと,性格異常者,精神薄弱者等に分類するほか,本人の年齢,入所度数その他の条件を考慮して,最も適当と思われる処遇方針を決定している。昭和三五年から三九年まで,五年間の新入院者についての調査から,そのおもな傾向をひろってみると,II-75表(1)・(2)・(3)・(4)・(5)に示すとおりである。入院度数では,昭和三九年は,入院一度目のものが六〇・一%と前年よりも増加している。しかし,入院四度目以上のものについてみると,昭和三五年には皆無であったものが,その後,年毎に増加して,昭和三九年には七・六%(一九人)に達していることが注目される。年齢別では,減少傾向にあった二〇才台のものが,三九年には,再び増加に転じたことと,四〇才以上のものの割合が,増加しつづけていることが目だつ。知能指数については,普通知能以上(IQ九〇以上)のものが九-一五%いるにすぎず,IQ七九以下の低知能者が,おおむね七〇%前後の割合を占めていることが注目される。入院時の疾患では,昭和三九年には,性病を有するものが,前年に引続いて増加し,これに,その他の疾患を有するものを加えると七六・六%のものが,なんらかの疾患を有することになり,まことに憂慮すべき状態である。

II-75表 婦人補導院入院者調べ(昭和35〜39年)

 婦人補導院は,このような入院者に対して,生活指導,職業補導および医療の三つを,対象別,時期別に組合わせて,各個人の特性に応じた分類処遇を実施している。生活指導は,道徳的訓育と情操のかん養を目標とし,院内生活のあらゆる場面を通じてなされている。職業補導は,家事,園芸,洋裁,和裁,手芸等が中心となり,これと並行して,施設の自営用務である炊事,清掃および洗濯にもつかせているが,これらの職業補導に対しては,平均ひとりあたり,月額六〇〇円程度の賞与金が与えられている。このほか,院外の事業所等に住み込み,または通勤で補導を受ける院外委嘱職業補導の制度もある。更にまた,課業終了後の余暇時間には,自己の収支において行なう自己労作も認められている。これらの処遇は,単に婦人補導院の職員ばかりでなく,民間の篤志面接委員その他,地域社会の強力な援助を得て,実施されているのである。
 補導成績の良好なものは,地方更生保護委員会の決定によって,仮退院が許されるのであるが,II-76表に示すとおり,大部分のものは,六月の補導期間満了による退院である。したがって,補導効果が不十分なまま出院するものも少なくなく,入院時の疾患が未治ゆのまま出院するものも,性病で三三%,その他の疾患では三四%となっている。また,昭和三九年の出院者二二四人のうち,その帰住先を夫または親族以外のもとに求めねばならなかったものは九五名(四二%)に達している。これらの収容者が,出院時に手にすることのできる賞与金は四,〇〇〇円以下のものが大部分であり,せいぜい数日間の生活を支えうるのみであろう。II-77表は,再入院者について,前出院時から再犯までの期間を調べたものであるが,これによると,三月以内に再犯したものが三四・八%,六月以内のものは五五・三%と過半数に達している。帰人補導院在院中の処遇について,更に一そう改善くふうの必要なことは,もちろんであるが,関係各機関の緊密な協力のもとに,より強力な補導援護の施策が施されなければならないゆえんである。

II-76表 出院者の出院事由別在院期間別人員(昭和36〜39年)

II-77表 再入院者の再犯期間別人員(昭和36〜38年)