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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第三章/三/1 

1 家庭(幼年期の養育環境)と犯罪

 家庭は人が生れて最初に持つ社会的環境であり,子供の社会化,道徳化の場として学校とともに,重要な役割を持つ。家族全体または年長者が不道徳な行為を平然と行なうような家庭からは不良な子供が出る可能性が大であり,この種不良化の事例は多い。
 他方,人格形成に対して家庭の良否が影響力を持つことは古くから説かれているが,とくに出生から六才頃までの幼年期の環境は重要とされる。すなわち,多くの学者の一致するところでは,人間の一生を通じての生活態度の基礎(性格の基礎といってもよい)は,この時期に形成される。アドラーは,「人間の生活態度は幼年期の後に変化することはない」とまでいった。もしこれが事実とすれば,子供がどのような養育環境にあるかということは,その子供の将来の社会適応のためにきわめて重要な問題というべきである。この場合,実父母の有無ということは必ずしも決定的ではなく,実際の親(またはこれに代わる役割を果す者を含む。以下この項において同じ)の影響の仕方が重要とされる。母親の影響力については,改めて説くまでもない。しかし,父親のそれも重要であり,子供の父親に対する感情がやがて権威ないしは法に対する態度の基礎となるとし,父親的影響なくして幼年期を経過した者がその点で性格的に欠陥を有することがあると説く学者もある。また,たとえ両親があっても,その間に深刻な不和があり,親同志の争いを常に経験する幼児は情緒不安定となり,円満な人格形成を遂げる可能性がすくない。さらに,英米の一部研究者の指摘する問題に「いらない子供」ということがある。これは,その出生が親に喜ばれないのみならず,全くの不幸または厄介と考えられているような境遇の子供をいう。このような子供は,無意識のうちに,すなわち自我意識完成前に,自分に対する親の冷遇を感得し,後日社会不適応の性格を露呈するに至ることがあるとされる。このようなことは,無能で生活力に乏しい親が多数の子供を産んだ場合に起りうることである。ちなみに,グリュック夫妻は,その成行調査を行なった多くの非行少年について,彼等が平均以上に多い家族数の家庭のものであるとした。家庭生活が親の愛情の下に健全に営まれる場合には,家族の多いことは,青少年にとってむしろ望ましい効果を有するものと考えられる。そうでない場合には,多数家族のうちには右のような問題を生じうる。したがって,余事ながら,多数の子供を産み,それらをすべて立派に養育して成人させたという両親は,その一家にとってのみならず,社会的にも賞讃に値する人々であるといわなければならない。