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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第二章/七/1 

七 犯罪者中の累犯者,前科者

1 序説

 刑法で累犯者とよばれるのは,懲役に処せられたのちその執行をおわり,または執行の免除のあった日から,五年以内にさらに罪を犯して,有期懲役に処せられた者であるが,犯罪学では,必ずしもこの意味にもちいられず,処罰されたかどうかに関係なく,罪をくりかえして犯した者にも使用されている。この意味での累犯者は,常習犯罪人に近いわけである。常習犯罪人とは,犯罪の習癖を有し,その習癖に基づいて犯罪をくりかえす者である。したがって,法律上の意味の累犯者と犯罪学上の常習犯罪人とは別個の概念であるが,累犯者には多数の常習犯罪人があり,常習犯罪人には,累犯者をはじめ,刑法上の累犯者には当らないが,なお以前に処罰されたことのある者が多いから,両者は密接な関係があるとされている。次に,前科者とは,かつて刑罰の言渡しをうけ,その裁判が確定した者を指していわれており,したがって,累犯者は前科者の中に含まれるわけである。
 これら累犯者等による犯罪の増加は,一九世紀後半の欧州諸国において顕著な事実となり,これが一つの動機となって,実証科学としての犯罪学が成立するにいたったといわれているが,現在でも累犯者とくに常習犯罪人の対策は,刑事政策における最も重要な国際的課題の一つであるとされており,一九五五年,ロンドンで開催された第三回国際犯罪学会議においても,累犯者の問題がとりあげられている。かように累犯者ことに常習犯罪人が問題とされるのは,その特徴が改善困難と社会的危険性が高いことにあり,また多くの精神医学者の調査によれば,常習犯罪人の大部分を占めるものは精神病質者であって,これに若干の精神薄弱者が加わっており,累犯傾向と精神病質的な人格偏倚とは,きわめて密接な関係にあることが示されているような事実もあって,これに対する有効適切な対策を考究することはますます緊急事となっているからである。
 累犯者とくに常習犯罪人に対する世界各国の刑事政策的措置としては,たとえばフランスのルレガシオン(植民地流刑),イギリスの矯正訓練と予防拘禁,ドイツ,スイス,北欧諸国における保安拘禁等種々の方策が存在する。しからば,わが国はどうであろうか。わが現行刑法には,累犯加重に関する一般規定(第五六条)はあるが,常習犯罪人に関する一般規定はなく,個々の場合に常習性を構成要件とする加重類型が設けられている。このような加重類型としては,刑法犯または刑法犯に準ずるものとして,常習賭博罪,暴力行為等処罰に関する法律における常習的暴行・傷害・脅迫・毀棄の罪,常習的面会強請・強談威迫の罪,盗犯等の防止及び処分に関する法律における常習特殊強窃盗の罪,常習累犯強窃盗の罪,常習強盗傷人・常習強盗強かんの罪がある(このほか覚せい剤取締法等の特別法においても常習犯を加重類型としている例がある)。これらの罪にあっては,行為者の常習性のゆえに刑が加重されており,また刑法の累犯者に対しては刑の義務的加重が行なわれるが,これ以外に現行法上常習犯人に適用しうべき特殊な措置は存在しない。これに対し,昭和三六年一二月に発表された「刑法改正準備草案」においては,常習累犯の規定を新設し,これに対していわゆる不定期刑を科しうることとし,この問題解決への前進を計ろうとしている。しかし,のちに述べるように,現在わが国の受刑者は,その半数以上が累犯者によって占められており,このうちには常習的傾向の強い者も少なくないと考えられるから,現行法の下においてもこれらの者に対する科刑並びに矯正および保護等の措置を適切に実施することが極めて重要であり,しこうして,その観点から運用の改善を考慮する余地はかなりあると考える。
 以下,統計面から,わが国における累犯者および前科者による犯罪の傾向をながめてみることとする。
 なお,主として常習犯罪の一部をなすものとして,暴力組織関係者による犯罪の多いてとは,わが国の犯罪現象にみられる一つの大きな特色であるが,この点については,すでに触れたところであるので,この節においては説明をはぶくこととする。