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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第二章/六/4 

4 自傷他害のおそれのある精神障害者と措置入院等

 前掲精神衛生法によれば,都道府県知事は,医療および保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ,または他人に害を及ぼすおそれのあると認めた精神障害者を本人および関係者の同意がなくても,すなわち強制的に,病院に入院させることができるとしている(同法第二九条。以下これを措置入院という。)。この措置入院による入院患者は,昭和三五年までは年々約千人ずつ増加してきたが,昭和三六年以後やや急激に増加し,すなわち,昭和三六年には約三万人であったが,翌三七年六月末現在では四〇,九九四人,三八年六月末現在では五〇,八二六人,そして三九年一〇月末現在では六二,〇六五人となっている。
 次に,精神衛生法によれば,精神障害者またはその疑のある者を知った者は,誰でも,その者について精神衛生鑑定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる(第二三条),とされているし,これらの者を保護した警察官(第二四条),これらの者について不起訴処分を行った検察官(第二五条),これらの者を釈放または退院させた矯正施設の長(第二六条)は,それぞれ都道府県知事に通報の義務を負っている。この申請または通報について,昭和三四年から昭和三八年までの五年間の統計を示すとI-57表およびI-58表のとおりであって,まず,一般からの申請は,昭和三六年には飛躍的に増加しているが(この理由は的確には判明しない。行政指導の影響ではないかと想像する),その後はむしろ減少の傾向を示している(ここで,当然のことながら,申請または通報の数の増減に比例して,精神障害者と認められた者の数が増減していることに留意すべきである)。

I-57表 精神衛生法による通報件数および精神障害者数(昭和34〜38年)

I-58表 精神衛生法による通報件数(昭和34〜38年)

 これに対して,警察・検察・矯正関係からの通報,すなわち,犯罪行為のあった者についての通報総件数は,年々増加しており,昭和三四年には二,〇八一件であったのが,昭和三八年には四,一四八件で約二倍になっている。ただ,この通報総件数の内訳としての警察官,検察官および矯正施設の長の各通報件数をみると,前二者のそれが年々増加の傾向にあるこれに対し,矯正施設の長のそれは,昭和三六年がやや多数であったほかは,大きな変化がみられない。ひるがえって,同じI-58表により,通報された者のうち精神障害者と認められた者の数をみると警察,検察関係において通報件数に比例して増加の傾向にあり,矯正関係においては前同様大差がない。もし,この統計表が,近頃精神障害犯罪者が捜査段階において発見される傾向が高まったことを意味するものであるとすれば,かれらが矯正施設に送られることがすくなくなることを意味するものであって,このことは犯罪予防という観点から望ましいことと考えられる。