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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第一章/一/3 

3 暴力犯罪

 昨年の犯罪白書は,「暴力犯罪の現況と問題点」という副題をかかげ,いやしくも暴力犯罪と考えられるものについては全般的に詳細な考察を行なうために,いわゆる暴力犯罪を生命犯的なもの,財産犯的なもの,性犯罪的なもの,および粗暴犯的なものの四種に分類して説明した。これに対して本書においては,説明をやや簡略に行なうために,性犯罪的暴力事犯は次項にゆずり,昨年の白書におけるその他の暴力犯罪を粗暴犯と凶悪犯の二種類にとりまとめ,いいかえると,暴行,傷害,脅迫および恐かつを粗暴犯とし,かつ,殺人,普通強盗および強盗致死傷(強盗強かんを含む。)を凶悪犯として,説明をすることにする。
 I-9表およびI-10表は粗暴犯と凶悪犯の発生件数の推移を示したものであるが,まず,暴行は,昭和三五年にやや減少してのちほぼ横ばい状態にあったが,昭和三九年には昭和三四年の発生件数をやや上回って戦後最高の数字を示している。これに対し,傷害(傷害致死を含む。)は,昭和三五年以来逐年減少傾向にあり,昨三九年にわずかな増加をみせ,脅迫も大体において傷害と同様な推移をたどり,恐かつは昭和三六年に戦後最高の教字を示したのちは減少傾向をみせている。

I-9表 粗暴犯の発生件数(昭和34〜39年)

I-10表 凶悪犯発生件数(昭和34〜39年)

 次に,凶悪犯にうつり,まず殺人であるが,昭和三四年以後昭和三八年まで減少傾向を示していたが,昭和三九年には再びやや増加している。また,強盗殺人,強盗致死傷,強盗強かんなどの凶悪強盗罪も,昭和三八年まで殺人同様に減少傾向を示していたのであるが,昨三九年にはやや増加している。しかし,普通強盗が昭和三八年を例外として,逐年減少傾向を示していることは留意すべきである。
 次に,検挙人員は,I-11表およびI-12表のとおりである。すなわち,粗暴犯は昭和三九年にいずれも増加し,とくに暴行と脅迫の検挙人員数の増加が目立っている。これは最近の暴力犯罪取締りの結果を反映するものであろう。また,凶悪犯に属する罪種の検挙人員数は,いずれも大体において昭和三四年以降減少傾向を示していたのであるが,殺人と強盗致死傷などの凶悪強盗の検挙人員数が昭和三九年にはやや増加しているのが注目される。

I-11表 粗暴犯検挙人員(昭和34〜39年)

I-12表 凶悪犯検挙人員(昭和34〜39年)

 次に,粗暴犯および凶悪犯検挙人員数を年令別に区分して百分率でみると,I-13表のとおりである。この表で目につくのは,恐かつと強盗において少年の占める割合が高く,とくに恐かつにおいては五〇%以上を少年が占め,しかも年々この率が増加している点と,傷害,暴行,脅迫などの粗暴犯において,少年の占める率が年々増加傾向にある点である。

I-13表 粗暴犯および凶悪犯検挙人員の年令別百分率(昭和34〜39年)

 暴力犯罪に関連して,いわゆる暴力団関係者による犯罪についても多少の説明を要するであろう。
 暴力団を正確に定義することは困難であるが,それが存在していることは顕著な社会的事実であり,常識的にいえば,暴力団とは,「集団的に暴力的不法行為を行ない,または行なうおそれがある集団」とでも定義しうるであろう。このような集団としては,ばく徒,暴力テキ屋(以下「テキ屋」という),青少年不良団(以下「愚連隊」という)が代表的なものであるが,このほかに売春暴力団,炭鉱暴力団,港湾暴力団,会社ごろ,新聞ごろ,暴力手配師などと称せられる各種の集団がある。これらの集団はその実態が千差万別であって容易にはは握し難いのであるが,他方これらの集団は秘密性,流動性がつよく,そのためますます実態のは握が困難となっている。このことは,統計諸資料の解釈に当って十分念頭におかなければならない。以下取締り当局の資料によって,その現況を展望することとする。
 昭和三九年一二月末日現在で,警察庁がは握している暴力団の数および構成員(準構成員を含む。以下同じ)の数は,四,五七三団体,一七七,〇三五人であり,これを最近六年間のそれと対比してみると,I-14表のとおりである。すなわち,団体数においては,昭和三七年にピークに達して以後順次減少傾向を示し,昨三九年は大幅に減少しているのが目立ち,一方,構成員数も昭和三八年まで明らかに増加傾向を示していたものが,昨三九年には減少しているのが注目される。これは,近時の取締り強化,強い世論の批判等との結果からと考えられるが,われわれは今後ますます強力な態勢を維持し,この種不良集団の根絶を期さなければならない。

I-14表 暴力団体数および構成員数の推移(昭和34〜39年)

 次に,最近における暴力団関係検挙人員を所属団体種類別にみると,I-15表のとおりである。これによると,まず,毎年五万人以上の暴力団関係者が検挙されていることがわかる。ところで,この検挙人員総数は昭和三六年を頂点として,三七年,三八年と減少していたが,昨三九年には増加して,昭和三六年の頂点に迫っている。これはある程度警察の取締り強化の影響を反映しているものと考えられる。次に,所属団体種類別にみると,昭和三九年にはばく徒,テキ屋,愚連隊の検挙人員の増加が目立ち,とくにばく徒において,前年の四割五分の増加となっているのが注目される。次に,罪名別に暴力団関係検挙人員の推移をみると,I-16表のとおりである。これによると昭和三九年には,とくにとばくと暴力行為等処罰に関する法律違反の検挙者が多数であったことが明らかである。なお,殺人が昭和三六年を頂点として漸減傾向にあること,強盗もおおむね同様の傾向にあることなどが注目される。

I-15表 所属団体種類別暴力団関係検挙人員の推移(昭和34〜39年)

I-16表 罪名別暴力団関係検挙人員の推移(昭和34〜39年)

 次に凶器の押収状況についてみると,I-17表のとおりである。すなわち,けん銃,けん銃以外の銃砲類,日本刀の押収数は昭和三四年以来逐年増加しており,昭和三四年を一〇〇とする指数で昭和三九年の押収量を示すと,けん銃は三四一,けん銃以外の銃砲類四三五,日本刀二二五となる。そして,昭和三九年におけるこの三者の押収量は,いずれも戦後最高である。

I-17表 暴力団関係犯罪押収凶器数累年比較(昭和34〜39年)