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平成24年版 犯罪白書 第7編/第2章/第1節/4

4 まとめ

刑務所出所者等が円滑に社会復帰していくために特に重要な課題となる就労に関し,その支援の実態と最近の取組等について述べてきた。

矯正施設における職業訓練や就労に関する指導等に加え,保護観察処遇においては,従前から保護観察官や保護司が,保護観察対象者に早期就職を動機付け,就労を中心とした規則正しい生活を維持するよう熱心に指導してきた。また,協力雇用主の協力を得て就労につながった事例も連綿と続いている。

しかしながら,近年の厳しい経済状況もあり,矯正施設において職業訓練等を受講した者が,社会に出てから直ちに就職を果たせない場合も少なくなく,一般の保護司が求職活動についての具体的,専門的な指導や援助を行うことも困難である。

無職の状態にあることは再犯を引き起すリスク要因であり,就労の確保は再犯防止対策上,極めて重要な役割を担っている。そこで,法務省と厚生労働省が連携し,継続的かつきめ細かな就労支援を実施するため,刑務所出所者等総合的就労支援対策や更生保護就労支援モデル事業等が開始された。このほか,地方自治体や民間においても新たな活動が展開し,刑務所出所者等の就労についての取組は,社会全体としての取組にもなりつつある。

就労支援が社会全体の取組として実施されるようになれば,様々なハンディキャップを背負った刑務所出所者等にとっては,矯正施設において,実際の就労に必要な技術や社会性を身に付けることができるだけでなく,境遇を理解した上で立ち直りの支援や雇用をしてくれる者や相談・助言者が得られ,就労の確保も円滑化し,ひいては更生意欲の向上も期待できる。

これまでの取組で,矯正施設や保護観察所では,矯正施設の職業訓練や就労に関する指導,保護観察所の就労指導や就労支援において,より具体的,現実的で効果的な指導を行うことが可能になり,公共職業安定所では,刑務所出所者等の生活や問題性に詳しい矯正施設職員,保護観察官,保護司等と連携し,各支援対象者の実態に即した支援ができるようになってきている。さらに,企業にとっては,想定される各種の不安材料のため,ともするとちゅうちょしがちな刑務所出所者等の雇用について,行政機関や民間団体による支援が充実してきたことにより,より採用しやすい環境が整いつつある。

このように刑務所出所者等に対する就労支援は充実してきているが,経済・雇用情勢の厳しさから就労困難な状況は続いており,就労支援の一層の充実と刑務所出所者等に対する指導の充実強化は欠かせない。刑務所出所者等に対しては,規則正しい生活習慣を身に付けさせるとともに,健全な職業観や就労意欲を高める指導を行い,雇用情勢に応じた職業訓練を充実させて実際の就労で役立つ能力を付与することが必要である。これに加え,職場における人間関係を良好に維持し,困難な場面では必要な相談をするなどして適切に行動し,安易な離職につながらないよう対人関係スキルや社会適応力を増進させるための指導の充実も必要と思われる。保護観察所や公共職業安定所等は,刑務所出所者等を雇用することに対する企業の不安感を取り除き,雇用先となり得る幅広い業種の企業を開拓するとともに,職場への定着支援策として,刑務所出所者等,雇用主の双方に対するフォローアップの指導助言体制を整えるなどして,安心して雇用ができる体制を,充実させていく必要があろう。

就労支援の仕組みが有効に機能し,更に発展していくためには,雇用する企業を始め,支援に関係する人々の協力と協働が不可欠である。刑務所出所者等の犯罪や非行の原因となる問題性に対する適切な指導を更に充実させるとともに,この事業に対する社会全体の理解を促進していくこともまた必要である。