少年非行の現状を見ると,刑法犯検挙人員は減少傾向にあるものの,少年人口に占める刑法犯検挙人員の比率はなお高水準にあり,また,少年の一般刑法犯検挙人員に占める再非行少年の比率が上昇し続けるなど,予断を許さない。少年は次代を担う世代であり,その健全な育成を図ることは我が国の将来の発展にとって不可欠であるが,時に少年による特異凶悪事件が発生し,社会の耳目を集めることもあいまって,国民の少年非行の現状に対する不安と関心は強いものがある。
他方,最近の我が国の犯罪情勢は,平成14年に一般刑法犯の認知件数が戦後最多を記録したことを受け,国民と政府とが一体となって治安の回復に取り組んだ結果,犯罪の増勢には一定の歯止めが掛かるなど改善しつつあるものの,なお,一般刑法犯の認知件数等の水準は高く,治安回復の道半ばであって,国民の治安に対する不安感は払拭されていない。このような現況の犯罪情勢における問題点の一つに再犯者の問題があり,検挙人員に占める再犯者の割合は近年高まってきている。政府による真の治安再生を目指した各種の対策においても,再犯防止対策は重要な柱である。近年の犯罪白書も,再犯防止対策の効果を上げるため,様々な角度から再犯の実態や原因等について調査・分析を行ってきたが,その中で,再犯防止のためには,少年・若年者に対して,再非行・再犯を防止するための処遇が重要であることが明らかになった。20歳未満の少年と20歳以上の者は,法的には区別されるが,その成長過程としては画然と区別されることなく継続し,その内的意識や外的行動の問題性も承継されると考えられる。少年・若年者に対する適切な処遇を検討する上では,そのような一連の時期の少年と若年者の実態を把握することが必須である。
こうした観点から,本白書では,平成22年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するのに併せて,「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」と題して特集を組むこととした。この特集では,各種統計資料等を精査するとともに,少年院出院者を対象にしてその出院後の刑事処分の有無に関する追跡調査を実施し,これらに基づいて,少年院出院者の犯罪の実態,その要因と特徴等を分析し,さらに,非行少年・若年犯罪者に対する意識調査を行って,内的意識の特徴を分析し,これらを踏まえて,少年・若年犯罪者の処遇の充実に向けた展望を試みた。
本白書が,少年・若年犯罪者を含めた犯罪者の処遇の実情など刑事政策に対する国民の理解を深める一助となり,また,今後の施策を検討する際の資料として利用され,非行少年・若年犯罪者に対する処遇の充実を始めとする治安対策を講ずる上で,多少なりとも寄与することができれば幸いである。
終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。
平成23年11月
法務総合研究所長 清水 治