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はしがき 最近の我が国の犯罪情勢は,平成14年に一般刑法犯の認知件数が戦後最多を記録するなど危機的状況にあったが,国民と政府とが一体となって治安の回復に取り組んだ結果,犯罪の増勢には一定の歯止めが掛かるなど改善しつつある。 しかしながら,長期的に見ると,治安状況にはなお厳しいものがあり,国民の治安に対する不安感は改善されていない。その主因は,国民に重大な危害を加える殺人,強盗,強姦等の重大事犯の発生状況にあると思われる。重大事犯も,認知件数は,平成15年ころからは減少傾向にあるものの,最近20年間で見ると,減少している状況にはなく,強盗では,平成の初めころの3倍程度の高水準にあり,治安を維持し,国民の平穏な生活を守る上で,重大事犯への対処は,最も重要な課題である。 法務省では,犯罪者の再犯を防止するために,専門的知識を活用した処遇方策の開発や社会復帰に向けた支援の拡充など,様々な施策を進めているが,資質に根ざした様々な問題性を抱えている重大事犯者の改善更生を図るなど,犯罪対策を考える上では,犯罪の実態と原因を把握することが前提である。さらに,昨年の5月から,裁判員制度が開始され,重大事件を犯した者は,国民が裁判に参加することにより,その良識を反映した刑罰を受けることとなったが,刑罰を決定するためには,犯罪の発生の実態や犯罪者に対する矯正・保護における処遇の実情を踏まえる必要もあり,今日,広く刑事政策を説明する必要性は大きくなっていると考えられる。 こうした観点から,本白書では,平成21年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するのに併せて,「重大事犯者の実態と処遇」と題して特集を組むこととした。この特集では,各種統計資料等を精査するとともに,重大事犯で受刑し出所した者を対象に特別調査を実施して,重大事犯の発生の実態,処遇の実情,再犯の状況等を分析し,さらに,現在行われている重大事犯者に対する処遇について特徴的な点を紹介し,これらを踏まえて,重大事犯に対処するための施策の充実に向けた展望を試みた。 本白書が,重大事犯を含めた犯罪者の処遇の実情など刑事政策に対する国民の理解を深める一助となり,また,重大事犯者に対する処遇の充実を始めとする施策を講ずる上で,多少なりとも寄与することができれば幸いである。 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,文部科学省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。 平成22年11月 法務総合研究所長 清水 治 |