前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成20年版 犯罪白書 第7編/第6章/第2節/3 

3 傷害・暴行(機会的な事犯者と常習性の高い事犯者の識別・応差的処遇)

 高齢傷害・暴行事犯者は,前述したように,窃盗の場合と比べ,有前科者の比率が低く,必ずしも孤独とは言えず,経済的不安も深刻ではない者が多く,飲酒の上,公共的な場で,面識のない相手に対し暴行を加えるような事犯が少なからず含まれており,活動範囲や対人関係の拡大が影響していると思われる者が少なからずいる。また,非高齢事犯者と比べ,高齢事犯者は,近隣との付き合いの在り方が影響している事犯も見られる。
 この中には,前歴がないまま高齢になった後,突発的に傷害・暴行に及ぶ者も含まれており,このような者の犯罪防止対策としては,処罰いかんではなく,むしろ,社会における犯罪防止教育として,余暇の過ごし方や対人関係のスキルの習得等について指導をするなどの教育が必要ではないのだろうか。すなわち,高齢者であるから良識をわきまえており,あえて何かを教育・指導する必要などないというのではなく,高齢に至ってもなお,精神的・社会的に自立できておらず,自己のコントロールが十分にできないか,あるいは,かつてはそれができていても,加齢によってその統制力を減弱していく事態が起き得ることを率直に認め,飲酒が原因でのトラブルや近隣関係でのトラブルを繰り返し,ついには,それが犯罪にまで至るおそれがある場合については,社会生活の中において指導・教育できる方策を考慮すべきであろう。
 また,高齢傷害・暴行事犯者の中には,数は多くないものの,常習性が顕著な者がおり,その中には,公共的な場で,初対面の相手に対し,飲酒の上で,粗暴な事犯を繰り返している者が見られた。この過半数が有前科者で,ホームレス・住居不定の者も少なくなかった。かかる者の処遇に関しては,平成19年版犯罪白書でも触れたように,傷害については,再犯を重ねても繰り返し罰金刑に処せられる傾向があり,罰金刑の感銘力について考えさせられる問題を含んでいるように思われ,再犯防止の観点を含めて,より柔軟に処分を決める必要があろう。このような場合,より確実にこの者を改善更生・社会復帰させるという目的の下に,保護観察に付し得る処分を検討するなどし,酒害教育を施すなどした上,感情をコントロールするための能力を身に付けることを目的とした処遇などのサポートができるよう配慮することが考えられよう。