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1 韓国 韓国では,1990年代以降,急速な人口の高齢化が進んでいる。その結果,2005年には,人口の高齢化率において,アジアの主要な国の中で,韓国は日本に次いで2番目となった。本節1に収録した資料が示すとおり,刑事司法のいずれの段階においても,高齢犯罪者(60歳以上)の占める比率は,近年一貫して上昇傾向にある。 これに伴い,施設内及び社会内における高齢犯罪者の処遇の在り方が問題となっており,欧米の例に関する詳細な調査を含む研究や,主として韓国の刑事施設に収容されている高齢犯罪者に関する実態調査などが複数なされている。それらの調査の中で指摘された主要な課題は,[1]高齢犯罪者増加の速度が速いこと,[2]高齢犯罪者の健康問題(特に刑事施設内における医療費負担増大の問題),[3]高い再犯率と短い再犯期間,[4]低い社会適応力と社会復帰の困難性,[5]男子以上に複合的な問題を抱える高齢女子犯罪者の増加傾向等である。 これらの問題も踏まえて,2007年には,施設内処遇の基本を定める「行刑法」が全面改正されて,「刑の執行及び被収容者処遇に関する法律」(2007年法律第8728号,2008年12月22日施行予定。以下「施設内処遇法」という。)が制定され,その中に,高齢受刑者処遇に関する特則が新設された(なお,現時点で,検挙・起訴段階における高齢被疑者・被告人に対する法律上の特別の規定はない。)。また,高齢受刑者の増加に伴い,釈放後の円滑な社会復帰に関する諸問題が明らかとなり,制度の整備が求められている状況にある。ここでは,検察段階での起訴猶予を活用した社会内処遇,施設内処遇及び釈放準備段階に焦点を当てた社会内処遇との連携について概要を述べる。 (2)高齢犯罪者に対する社会内処遇 保護観察所善導委託付起訴猶予制度(以下「善導委託」という。)は,「保護観察等に関する法律」(1995年1月5日施行)に基づいて導入された制度である。高齢犯罪者のみを対象とした制度ではないが,保護観察所への善導委託を条件に,検察官が被疑者を起訴猶予に付することができる(第15条第3号)。 善導委託対象者に対しては,保護観察官が,善導教育,集団治療,相談等,適切な指導を実施し,善導の目的達成のために必要であると認められる場合,対象者の家族,隣人,友人等と接触できるほか,学費補助,就学,就業あっせん,その他経済的な支援をすることができる。 65歳以上の高齢犯罪者のうち,2005年は11人,2006年は9人,2007年は12人がそれぞれ善導委託の対象となっており,一定数の高齢犯罪者に対する社会内処遇の選択肢として活用されている。 2007年の高齢犯罪者への善導委託の適用事例を見ると,対象者の年齢は,65歳から88歳,罪種は,窃盗が6件と半数を占め,放火犯が2件,粗暴犯が2件等となっている。これらの中で,窃盗については,常習であっても諸般の情状を勘案して善導委託となった例がある(69歳。百貨店で,衣料品を窃取。)。これ以外の窃盗は,生活苦や病院の治療費に窮したことが動機となっているものが中心であるが,認知症による症状のもとでの犯行も見られる。放火犯及び粗暴犯は,いずれも,憤激の余りによる偶発的犯行であった。 (3)高齢犯罪者に対する施設内処遇 高齢受刑者に対する処遇上特別の配慮等については,従来,法律上の規定がなく,病気に準じた者として分類級の適用外(級外者)とすることで,刑務作業の負担軽減等が行われてきた。今後,施行予定の施設内処遇法ではこの点を改め,刑事施設の長は,高齢の被収容者について,年齢,健康状態等を考慮し,その処遇に適正な配慮をしなければならないと規定し(第54条),高齢者特有の問題点に対応した処遇を行うべきことを明確化した。その上で,高齢者など,特別の処遇が必要な受刑者は,法務部長官が専門矯正施設と定める施設に収容され,その特性に従った処遇を受けることとされた(第57条,同条のただし書では例外が認められている。現時点で,高齢者専門の刑事施設は存在しない。)。 健康問題については,2001年の刑事政策研究院による239人の高齢受刑者に対する実態調査によると,65.7%が何らかの疾患を有しているとされており,2006年からは,高齢者に多いとされる高血圧,糖尿病,心臓疾患等の有無を調査するため,血液,尿,心電図等の23項目について総合病院における検査を全受刑者に実施している。医療費に関しては,2005年に「国民健康保険法」が改正され,高齢者を含む全受刑者に国民健康保険が適用されている。また,高齢者用の居室の設置や冬期の暖房補助用品の支給など,高齢者の心身の健康に配慮した措置が採られている。 釈放後の円滑な社会復帰を図るためには,実態調査からは,家族との関係が良好に維持されていることが重要であることが判明しており,一定の条件を満たす高齢受刑者を対象に,年1回,父母の日に合同の家族接見が実施されている。また,高齢受刑者に対する敬老思想に基づき,高齢者慰労会や高齢者の誕生祝いを実施している刑事施設もある。 刑務作業については,高齢受刑者の場合,そもそも免除されている者が相当の比率でいるほか,作業する場合も軽作業を割り当てる等の配慮がなされている。作業免除者の場合,作業時間にレクリエーション活動をすることが認められている場合もある。 仮釈放については,仮釈放審査の対象となる者の選定及び仮釈放許可の審査に際して,一般の受刑者よりも緩和した刑の執行率が高齢受刑者に適用されており,制度の運用上は早期釈放に向けた一定の配慮がなされている。しかし,高齢受刑者は,刑期の短い者が多く,高齢に伴う疾患を有している者も少なくないことから,実際に仮釈放の対象となる者は多くない。 (4)高齢犯罪者に対する社会復帰のための支援 高齢犯罪者の高い再犯率,短い再犯期間及び低い社会適応力の背景として,韓国の複数の研究では,経済的問題(貧困,求職困難等)との関係が指摘されている。そこで,高齢犯罪者のみを対象とした制度ではないが,刑事施設からの釈放準備段階を中心に,次のような就労支援に関連した措置が採られ,高齢犯罪者の社会復帰支援に役立てられている。 ア 被収容者就労あっせん協議会による支援 2000年に創設された被収容者就労あっせん協議会は,地方単位で,労動部地方支所など就労関係機関勤務者及び地域社会の有識者を中心に就労あっせん委員会を構成し,毎月1回以上委員会会合を開いて就労あっせんを行っている。近年(2005〜2007年)では,刑事施設からの釈放者で就労あっせんを受けた者のうち,おおむね5割程度の者が就労あっせん委員会によるあっせんを受けている。 イ 身元保証保険制度 身元保証保険は,刑事施設からの釈放予定者に対する就労あっせんの際,雇用主側の請求に応じて保険に加入し,釈放者が就労開始後に雇用主に損害を与えた場合に賠償する制度である。刑事施設釈放者の就労円滑化を側面から支援する制度として2002年から運営されている。加入対象者は,釈放予定者で就労先が既に確定して身元保証が必要である者及び釈放前に就労あっせんを依頼し,釈放後1か月以内に就労先が確定して身元保証が必要となる者である。保険期間は2年以下で,保険金額の上限は5,000万ウォンである。 ウ 国民基礎生活保障制度の活用 国民基礎生活保障制度は,日本の生活保護制度と同趣旨で,生活困窮者に必要な給付を行い,最低限の生活を保障して自活を助けることを目的として,「国民基礎生活保障法」(1999年法律第6024号)に基づき,2000年10月に開始された。法務部矯正本部では,満期釈放,仮釈放,刑執行停止などによる刑事施設からの釈放予定者につき,釈放直後における経済的困窮を要因とする再犯を防止するため,国民基礎生活保障制度による保護が受けられるようにあっせんしている。具体的には,刑事施設の長においてその者の所得認定額が最低生活費以下に該当すると判断した場合,出所予定者の居住予定地の地方自治体に出所の60日から20日前に受給の申請をし,釈放前に手続を完了して受給が決定されると,釈放と同時に国民基礎生活保障を受給できる。保障の内容には,生計給付,住居給付,教育給付,社会福祉施設への入所,自活支援(職業訓練,就労あっせん,起業支援等)などがある。法務部矯正本部との連携開始(2002年2月)以来,受給者数は順調に増加し,2007年は2,199人が,2008年は4月までに833人が対象となった(韓国法務部矯正本部の資料による。)。 |