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 平成19年版 犯罪白書 第7編/第5章/第5節/3 

3 英国

(1)近時の犯罪対策の方針
 英国では,犯罪認知件数が1980年代を通じてほぼ一貫して増加したこと等を受けて,1996年3月に議会に提出された白書「公衆の保護-イングランド及びウェールズにおける犯罪に関する政府の戦略」において,「政府の第一の責務は,法と秩序の維持による国民の保護である。」と宣言した。以後,英国では,犯罪に対するより厳しい一連の施策が行われるようになり,2000年代においてもその方針は堅持されている。

(2)多機関公衆保護協定
 2000年刑事司法及び裁判所業務法(Criminal Justice and Court Services Act 2000)に基づいて,多機関公衆保護協定(Multi-Agency Public Protection Arrangements, MAPPA)が創設された。MAPPAは,イングランド及びウェールズの42地域において,地域の警察,犯罪者の社会内処遇を担当する政府機関であるプロベーション・サービス及び刑務所が監督機関(Responsible Authority)となり,地域社会における重大な暴力犯罪又は性犯罪を犯した者を対象者として,これらの者による再犯の危険から地域住民を守るため,種々の施策を行う枠組みである。具体的には,対象者をその再犯の危険性により3段階のレベルに分けた上,それぞれに対応した指導監督と支援を,監督機関及び雇用,教育,社会保障,保健医療,住居に関する公私の機関・団体との連携の下で行っている。2003年刑事司法法(Criminal Justice Act 2003)によって,刑務所が監督機関に加えられたため,対象者の釈放前から,刑務所,警察,プロベーション・サービスが緊密な連携を図って,釈放の時期・場所から釈放後の指導監督・支援体制に至るまで,充実した準備をすることができるようになった。

(3)新規立法による重罰化
 1997年犯罪(量刑)法(Crime(Sentences)Act 1997)に基づいて,裁判所は,殺人・強姦等の重大な犯罪で有罪を宣告された者が,再度,同様の犯罪をした場合には,原則として終身刑に処すべきこと,一定種類の薬物不法取引で2回有罪を宣告された者が,再度,同様の犯罪をした場合には,原則として7年以上の拘禁刑に処すべきこと等を内容とする制度が導入された。
 また,2003年刑事司法法に基づいて,裁判所は,特定の暴力犯罪又は特定の性犯罪をした者が,同様の犯罪を繰り返して,公衆に重大な危害を加える危険性があると評価される場合には,終身刑又は公衆保護のための拘禁刑(imprisonment for public protection,絶対的不定期刑の一種)を必要的に言い渡すべきとする制度が導入された。
 また,これと併せて,同法に基づいて,特定の暴力犯罪又は特定の性犯罪をした者が,同様の犯罪を繰り返して,公衆に重大な危害を加える危険性があると評価される場合,裁判所が,拘禁刑の期間に加えて,刑期の満了後も,延長期間(the extension period)として,社会内での指導監督に付する制度を導入した。

(4)監督等を強化した社会内処遇制度
 2003年刑事司法法では,伝統的に用いられてきたプロベーション命令等の諸命令を,社会内命令(Community Order)とそれに付される12種類の遵守事項(requirements)に一本化し,併せて,その内容の強化を図った。例えば,従前の社会奉仕命令は,社会奉仕を内容とする無償労働の遵守事項を伴う社会内命令となり,労働時間の上限も240時間から300時間に拡大された。