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 平成19年版 犯罪白書  

はしがき

 最近の我が国の犯罪情勢を見ると,一般刑法犯の認知件数は,平成14年に戦後最多を記録した後,4年連続で減少し,現在は減少の兆しが若干強まっているものの,依然として相当高い水準にある。
 かかる犯罪情勢の中にあって,その要因となっている犯罪者は,初犯者と再犯者とに大別されるところ,再犯者は,犯罪者全体に占める人員の比率が比較的低いにもかかわらず,事件数全体に占める事件数の比率は初犯者のそれに比べて格段に高く,社会に多大な脅威と被害をもたらしている。その一方で,再犯者は,犯歴を重ねるにつれて犯罪傾向が進むことなどから,その改善・更生を図ることが困難になる。
 再犯の防止は,刑事政策上の重要かつ困難な課題の一つであり,古くから多くの研究がなされてきた。法務総合研究所でも,既に昭和53年版犯罪白書及び63年版犯罪白書において,再犯の問題を特集として取り上げて様々な分析を行っている。しかし,その後約20年が経過して社会情勢は大きく変化し,犯罪情勢も当時に比べると相当悪化している。また,近年,刑務所出所者等による重大再犯事件が相次いで発生するなどしたため,有効な再犯防止対策の確立が社会的関心事となっている。刑事司法の分野では,法務省において性犯罪者処遇プログラムが策定され,刑事施設及び保護観察所で,対象者にこれが実施されたり,法務省と厚生労働省との連携の下,「刑務所出所者等総合的就労支援対策」として,受刑者及び少年院在院者,保護観察対象者,更生緊急保護の対象者の就労支援が実施されるなどの様々な新たな取組が行われている。
 このような状況を踏まえ,本白書では,平成18年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,刑事政策上の重要課題である再犯防止対策に資する資料を提供するために,「再犯者の実態と対策」と題して特集を組むこととした。
 今回の特集では,主として,犯歴・統計資料の分析により,再犯者対策の重要性や近時の再犯の傾向を示すとともに,再犯者について,罪名,年齢,量刑,属性等の様々な視点から,その実態を概観し,さらに,重大犯罪の代表として,殺人の再犯事犯について特別調査を行い,その動機・原因,被害者との関係,犯行手段,再犯者の属性等を見ることにより,その特徴について考察する。また,検察・裁判,矯正及び更生保護の各分野において,さらには,諸機関の連携によるものとして,どのような再犯防止対策が現在採られているのかについて紹介する。そして,最後に,これらの分析・調査等を踏まえて再犯防止対策を検討するに当たり特に考慮すべき若干の点について述べ,今後の再犯防止対策の視点となるものの提示を試みることとする。
 本白書が,再犯防止の対策を検討・研究する際の有用な資料となるとともに,今後,再犯防止対策について広く国民や地域社会の理解を深める過程において,多少なりとも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。

平成19年11月

法務総合研究所長  松 永 榮 治