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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第6章/3/(2) 

(2) 有効な再犯防止対策の確立

 一般刑法犯検挙人員中の再犯者数は,近時,年々増加し続けており,同検挙人員中に占める再犯者の人員の比率も上昇傾向にある。また,前記のように,刑事施設出所者等による重大事件の再犯が相次いで発生するなどしたため,性犯罪者等に対する有効な再犯防止対策の確立が社会的関心事ともなっている。
 有効な再犯防止対策を確立することは,重要な犯罪抑止対策の一つであり,また,国民の犯罪に対する不安を緩和する手立てとなる。しかし,刑事施設を出所した受刑者の再入率,保護観察付き執行猶予者の再処分率等は,引き続き相当高い水準で推移しているという厳しい現実があり,施設内処遇又は社会内処遇を受けた者の再犯を防止することは容易なことではない。
 前記の刑事施設及び保護観察における性犯罪者処遇プログラムの導入は,刑事施設及び保護観察所という犯罪者処遇機関が連携し,諸外国における実証研究により効果が認められるとされている科学的な方法である認知行動療法に基づく処遇プログラムを体系的に実施しようとする取組であり,今後,その再犯防止効果が実証されれば,犯罪者処遇において,重要な位置づけを与えられることが予想できる。したがって,その再犯防止効果について,今後,十分な客観的検証が行われる必要がある。
 しかし,犯罪者の円滑な社会復帰を実現し,再犯防止効果を挙げるに当たっては,このような犯罪者処遇機関の取組だけでは不十分である。
 警察等の第一次捜査機関,検察,裁判等の司法関係機関,矯正,更生保護等の処遇機関を通じ,各機関がそれぞれ再犯防止という刑事政策上の目的を強く意識し,連携して職務を遂行することが必要である。
 その意味で,性犯罪等一定の犯罪によって受刑し,刑事施設を出所する受刑者に関する情報を警察に提供して共有したり,警察が所在不明となった保護観察対象者の所在の発見に協力することとなったことは重要であり,今後も,このような連携が図られなければならない。
 前記のように,最近の刑法の改正によって刑の上限が引き上げられたが,これによって,裁判所は,他の情状事実に併せ,被告人の再犯可能性等を考慮し,従前よりも更に幅の広い量刑を行うことが可能となった。また,窃盗,公務執行妨害等の罪に選択刑として罰金刑が設けられたため,比較的犯罪傾向の進んでいない犯罪者等に対しても,刑罰による感銘力を与えることができる幅が広がった。これを適切に運用することによって,再犯防止に向けた刑事政策的効果を期待できる。
 仮釈放の運用についても,再犯防止の観点から配慮すべき事項がある。前記の「更生保護のあり方を考える有識者会議」の提言においては,改善更生の意欲が不十分な対象者に対しては仮釈放の判断を厳しくする一方,仮釈放時期の決定に当たっては,対象者の円滑な社会復帰に必要にして十分な保護観察期間を確保することに可能な限り意を用い,真実改善更生の意欲があり,社会内処遇に適する者については,早期に仮釈放するなどの運用を行うべきであるとの提言が行われている。もちろん,このような仮釈放の運用のためには,対象者の再犯危険性の適切な評価や社会内処遇体制の一層の充実強化が必要となろう。
 刑事司法関係者は,それぞれの立場で,このような新たな立法措置によって設けられた選択肢を有効に活用し,再犯防止目的を意識した運用を心掛ける必要があろう。
 他方,犯罪者を円滑に社会復帰させ,再犯防止効果を挙げるためには,犯罪者がやがて復帰することとなる地域社会との連携や地域社会自体における取組が欠かせない。
 このため,犯罪者の更生に対する国民や地域社会の理解を促進することが重要である。
 刑事施設においては,従前から,受刑者の更生に協力する民間協力者の確保が図られてきたし,受刑者処遇法によって導入された刑事施設視察委員会の活動を通して,地域社会との連携が一層確保されることが望ましい。PFIの導入による新たな刑事施設の建設及び運営は,地域に支えられる刑事施設の在り方をより鮮明に指し示すこととなろう。これらを通じて,刑事施設は,更に国民に開かれたものとなることができる。
 社会内処遇の分野において,地域社会との連携が重要であることは今更指摘するまでもなく,保護司をはじめとする民間の力の活用が図られてきたが,前記の「更生保護のあり方を考える有識者会議」の提言においては,更生保護制度の運用についての国民,地域社会の理解が不十分であることが指摘された。この指摘を重く受けとめ,今後,更生保護についての国民,地域社会の理解を深めるとともに,地域社会との一層強固な連携の在り方を模索しなければならない。
 このように,地域社会と強く連携した上で,出所受刑者等に対する就労支援等の対策にも引き続き取り組んでいく必要がある。