4 被害者に関連する指導助言の状況 保護観察所調査対象者が起こした事件の被害者の遺族の感情等に関して,環境調整又は保護観察中に実施された調査,及び保護観察所調査対象者に対して行われた被害者等への対応についての指導内容等を調査した。 矯正施設収容中又は保護観察中のいずれかの時期に被害者等調査の実施された事例は,計15人(17.4%)であった(家族を被害者とする家族型では調査は行われなかった。)。被害者を視野に入れた指導・助言等の実施状況については,「被害者を慰霊し冥福を祈ること」が70.9%と比較的高く,次いで,「被害者の立場に立って考えること」(57.0%),「謝罪すること」(50.0%),「金銭的賠償をすること」(36.0%),「謝罪に出向く際の保護観察官又は保護司の同行」(5.8%)の順であった。 以下,非行類型ごとに被害者等への対応についての具体的な指導等の事例を紹介する。
[1]月命日に遺族宅での焼香を行った傷害致死の事例(集団型の男子) 共犯者と共に,暴走族を離脱しようとした被害者に制裁を加え,死亡させた事例。 本人は,自らは直接暴行には及んでいなかったが,少年院の教育の中で「暴力は振るっていなくとも,自分たちがそこにいただけで,被害者は恐怖を感じて逃げ出せなかったので,暴力を加えた加害者と同罪なのだ」という気持ちを述べている。金銭的弁償については,父母が依頼した弁護士が当たっていたため,保護観察所では,供養や遺族への謝罪の在り方を中心に指導助言を行った。時期を失しないで謝罪に行くべきだが,その際には遺族の都合を最優先し,保護者も同行して我が子の非をわびること,誠意と反省の気持ちを示すこと等の助言を行った。この指導の下,少年院を仮退院直後に謝罪に行き,遺族の了解を得て,毎月,月命日に家族と共に遺族宅を訪問して焼香を続けている。
[2]行きずりのホームレスを死亡させた傷害致死の事例(単独型の男子) 公園で行きずりのホームレスである被害者から追い掛けられ,もみ合いになり,所携のナイフで被害者を刺し,失血死させた少年についての事例。 父母が被害者の親族に謝罪の上,見舞金を支払い,被害者の親族からは寛容な処分にするよう家庭裁判所に陳述書が提出された。少年院を仮退院後,保護観察所では,本人がかつていじめの被害にあってナイフを持ち歩いていたことや学校を怠学がちであったことを踏まえ,みだりに刃物を持ち歩かないことや,目標を定めて社会生活に適応すること,混乱したときやトラブルの際の適切な対処の仕方等について,想定される具体的なトラブル等の事実関係に即した実際的な指導助言を行った。
[3]供養の方法について指導した嬰児殺の事例(家族型の女子) 携帯メールで知り合った男性との交際で妊娠し,適切な処置ができないまま自宅で出産した嬰児を殺害した女子についての事例。 保護観察官及び保護司は,生命の尊さについて考える指導の一環として,毎朝被害者の位牌を安置した仏壇に冥福を祈ること等について助言した。本人は,仏壇に菓子を供えたり,寺院を巡って冥福を祈るなどした。本件まで本人の生活の乱れに関心の薄かった父母も,命日には自宅に僧侶を招いて供養を依頼するなど,本人と共に命の大切さを考えようとする姿勢が見られた。
[4]遺族の感情が宥和し良好措置に至った危険運転致死の事例(交通型の男子) 高速で危険な運転により,通行中の被害者をはねて死亡させた少年についての事例。 家庭裁判所から検察官に逆送され,実刑判決を受け服役した後,仮出獄となった。在所中から父母は,本人の引受け及び監督に積極的な姿勢を示し,被害弁償も誠実に履行した。被害者等調査の結果,遺族の感情の宥和が認められ,本人は,就労状況,保護観察成績も一貫して良好状態を継続していたため,期間の満了前に不定期刑終了の措置が執られた。
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