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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第4章/第4節/7 

7 少年院における処遇の課題とこれに対する取組

(1) 被害者の視点を取り入れた教育の充実・強化

 少年院では,従来から,在院者が将来再非行をしないように教育するには,まず,自分の非行行為やそれが他人に及ぼした影響等について反省させることが更生の出発点になるとの観点から,在院者に反省の気持ちを持たせるための指導を様々な処遇場面で日常的に行ってきた。その後,平成9年の神戸連続児童殺傷事件を契機に,非行の重大性等により,少年の持つ問題性が極めて複雑・深刻であるため,その矯正と社会復帰を図る上で特別の処遇を必要とする者を対象とする課程を設ける必要性が認識され,生活訓練課程G3を新設した。同課程は,非行の重大性を深く認識させ,罪の意識の覚せいを図ること,被害者及びその家族等に謝罪する意識をかん養すること等を目標として教育を行うものである。
 そして,生活訓練課程G3の新設等を機に,その他の多くの少年院でも,被害者の苦痛や心情に対する理解を深めさせるために従来から実施してきた様々な指導を一層強化するようになった。現在では,それら指導を「被害者の視点を取り入れた教育」として体系的に実施している。
 法務省矯正局では,「被害者の視点を取り入れた教育」への既存の取組について検証し,今後の教育の在り方やその教育内容・方法等の充実を図ることを目的に,被害者支援団体,犯罪被害者に関する専門研究に携わる大学関係者等,部外の有識者を交えて「被害者の視点を取り入れた教育」研究会を平成16年6月から9月にかけて4回にわたって開催した。
 現在,「被害者の視点を取り入れた教育」は,同研究会で提出された様々な意見も十分に踏まえて,そのプログラムを充実・強化しつつある。一例として,ある男子少年院における「被害者の視点を取り入れた教育」の概要を示すと,4-4-4-35表のとおりである。

4-4-4-35表 少年院における被害者の視点を取り入れた教育の概要

 このほか,少年院における被害者問題への取組の一環として,犯罪被害者又はその支援者等による講演等を実施したり,福祉や医療の専門家に「命と心の相談員」を委嘱し,命の大切さを理解させ,思いやりの心を育てるための指導を実施している。
 今後も,これらの施策を拡充しつつ,プログラムの質的向上を図り,在院者に,被害者及びその家族の置かれた状況や具体的な被害の大きさについて実感を持たせ,謝罪の決意を具体的に行動で表すことができるよう,指導を行っていく必要がある。

(2) 保護者への働き掛けの強化

 少年院教官調査の結果によれば,「親の指導力の問題」が最近の非行少年処遇を困難にしている原因の一つであり,多数の少年院教官が,指導力に問題のある非行少年の保護者が増えたと認識している(本編第3章第2節3参照)。
 少年院では,従来から,保護者が面会のために来院した機会等を積極的に活用して,在院者の矯正教育及び円滑な社会復帰に向けた協力を要請するなどの保護者に対する働き掛けを行っている。
 そうした働き掛けの一つとして,少年院では,在院者の入院直後の時期又は出院を間近に控えた時期に,保護者会を行っている。保護者会では,保護者に少年院に出向いてもらい,在院者に対して実施されている矯正教育の内容や施設内での生活の概況を説明するとともに,在院者,保護者及び教官の三者面談により,在院者の家族関係等の調整や出院後の進路等が話し合われる。保護者会に出席した家族は,「実際に少年院を見て,職員の説明を聞いて,これまで少年院に抱いていた暗いイメージがなくなった」という感想を抱くことが多い。
 平成16年において,全国の少年院が入院時保護者会の開催通知を送付した家族の数及び同通知に応じてこれに出席した家族の数は,4-4-4-36表のとおりである。

4-4-4-36表 少年院における入院時保護者会の出席率

 少年院に対する安心感と信頼感を保護者に持ってもらうことにより,少年院では,保護者を矯正教育のパートナーとして位置付けて,より強力に矯正教育を推進していくことが可能となる。今後も,保護者会等を通じ,例えば,交友関係の整理,就労先の確保等について,少年院の側から保護者に問題提起するなど,在院者の矯正教育及び出院後の更生に積極的に保護者をかかわらせるための方法に一層の工夫を重ね,更なる充実を図っていく必要がある。

(3) 外国人在院者の処遇の充実

 平成16年の新入院者5,300人のうち,121人(2.3%)が外国人であった。
 外国人新入院者の国籍等別人員の推移(平成6年以降)は,4-4-4-37図のとおりである。
 平成6年には外国人の約70%が韓国・朝鮮で占められていたが,その後,ブラジル及び中国が増加し,16年は,ブラジルが48人(同年の外国人新入院者121人に占める比率は39.7%)と最も多く,次いで,韓国・朝鮮32人(同26.4%),中国15人(同12.4%)の順であった。

4-4-4-37図 外国人新入院者の国籍等別人員の推移

 こうした外国人在院者の増加に対処するため,平成5年に,日本人と異なる処遇を必要とする外国人少年を対象とした処遇課程として生活訓練課程G2が設けられ,その処遇の専門化に向けた体制の整備が図られた。現在,男子少年院10庁,女子少年院3庁に生活訓練課程G2が設けられている。
 平成16年の新入院者のうち,生活訓練課程G2の対象者として分類された者は,48人(いずれも男子)であった。これを国籍等別に見ると,ブラジルが38人と最も多く,次いで,中国が3人であった。非行名別に見ると,窃盗が28人と最も多く,次いで,強盗(8人),強盗致死傷(6人)の順であった(矯正統計年報による。)。
 生活訓練課程G2では,基本的な生活習慣についての指導,日本語学習指導,帰住先に応じた早期からの適切な進路・生活設計指導等に重点を置いた処遇が行われているほか,母国語及び母国の情報に接する機会を確保するため,母国語の図書,新聞等を提供したり,外国人の篤志面接委員を委嘱して定期的な面接指導を依頼するなどしている。
 在院者に対する個別処遇の趣旨をG2在院者にも徹底していくためには,まず,教官と少年とのコミュニケーションの確立が前提となることから,今後とも,外国語のできる職員の養成のほか,日本語学習指導の充実強化に,なお一層努めていく必要がある。
 さらに,G2在院者の中には,出院後も法的に在留が認められている者と,不法滞在者で出院後退去強制が見込まれる者がいる。前者については,日本語が理解できないために日本社会に溶け込めず,同国籍の不良集団との遊興の果てに非行に走るケースが見受けられるが,このような少年については,地域社会内の同族・同胞コミュニティーというその帰住環境の特殊性を考慮した施設内及び社会内での指導の強化が必要であり,日本語や日本社会のルールを確実に身に付けさせる機会を提供していかなければならない。他方,後者については,少年院での生活に意義を見いだせず,指導が浸透しにくいという問題や,出院後の保護観察に相当する継続的な指導を母国において期待できないといった問題がある。今後とも,大使館等の関係機関や保護者と連携・協力しつつ,母国の社会状況,帰住環境等の情報の入手に努め,それを処遇に生かしていくほか,長期的には,これら少年に関し,より明確な処遇目標を確立していく必要がある。