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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/4 

4 改正少年法の運用

 平成13年4月1日に少年法等の一部を改正する法律(平成12年法律第142号。以下,本項において「改正少年法」という。)が施行されて4年が経過した。改正少年法は,[1]少年事件の処分等の在り方の見直し,[2]少年審判の事実認定手続の適正化,[3]被害者への配慮の充実の三つの柱からなっており,その運用状況は,以下のとおりである。

(1) 少年事件の処分等の在り方の見直し

ア 刑事処分可能年齢の引下げ

 改正少年法により,刑事処分可能年齢が14歳に引き下げられた。平成16年までに刑事処分相当として検察官送致された16歳未満の少年(道交違反を除く。)は,14年が1人(強盗強姦),15年が2人(傷害致死)であった。なお,15年の2人については,起訴後に少年法55条により地方裁判所から家庭裁判所に移送され,保護処分(少年院送致)とされた(法務省刑事局の資料による。)。

イ 原則逆送制度

 改正少年法により,犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件(以下,本節において「原則逆送事件」という。)については,家庭裁判所の調査の結果,刑事処分以外の措置が相当と認められる場合を除き,検察官送致決定をしなければならないこととされた。
 原則逆送事件の罪名別家庭裁判所終局処理(年齢超過による検察官送致決定を除く。)人員(平成13年4月以降)は,4-4-2-18表のとおりである。
 原則逆送の対象となった少年は,合計294人(検察官送致後,少年法55条により地方裁判所から移送されて家庭裁判所に再係属した時の少年10人を除く。)であり,このうち178人(60.5%)が検察官送致決定を受けており,その罪名別の検察官送致率(終局処理人員(年齢超過による検察官送致を除く。)に占める検察官送致(刑事処分相当)人員の比率をいう。以下,本節において同じ。)は,殺人(既遂)57.1%,傷害致死55.4%,強盗致死69.8%,危険運転致死92.3%であった。
 なお,地方裁判所から家庭裁判所に移送された前記10人(傷害致死9人,強盗致死1人)については,全員が家庭裁判所において,少年院送致処分とされた(最高裁判所事務総局の資料による。)。

4-4-2-18表 原則逆送事件の罪名別家庭裁判所終局処理人員

 改正少年法施行前の10年間における平均検察官送致率は,殺人(未遂を含む。)24.8%,傷害致死9.1%,強盗致死41.5%であり,法改正後は検察官送致率が高くなっている(最高裁判所事務総局の資料による。)。

ウ 保護者に対する措置

 改正少年法により,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,保護者に対し,少年の監護に関する責任を自覚させ,その非行を防止するため,調査又は審判において,自ら訓戒,指導その他適当な措置をとり,又は家庭裁判所調査官に命じてこれらの措置をとらせることができるとされた。
 家庭裁判所においては,改正の趣旨を踏まえ,例えば,[1]家庭裁判所調査官が保護者に対する面接調査の中で,養育態度の見直しや被害弁償を促すなどの指導を行う際,保護者の責任等を分かりやすく整理したシートを活用する,[2]交通違反や薬物乱用の少年を対象とした講習を保護者にも受講させる,[3]社会奉仕活動に親子で参加させて親子関係改善の契機とする,[4]保護者会を実施して保護者の感情や経験を語り合う場を設けて少年に対する指導力を高めさせる,[5]保護者にも犯罪被害者の体験談を聞かせて被害者の痛みを理解させるなどして,保護者が主体的に養育態度を考え直し,監護に関する責任を自覚するようにするなどの,より積極的な働き掛けに努めている(最高裁判所事務総局の資料による。)。

(2) 事実認定手続の一層の適正化

ア 裁定合議制度

 改正少年法により,少年審判事件に裁定合議制度が導入された。
 一般保護事件の終局処理人員(平成13年以降)中,裁定合議決定のあった人員を主要非行名別に見ると,4-4-2-19表のとおりであり,合計119人について裁定合議決定がされている。

4-4-2-19表 一般保護事件の裁定合議決定人員

イ 検察官及び弁護士である付添人が関与した審理の導入

 改正少年法により,家庭裁判所は,[1]犯罪少年に係る事件であり,[2]その事件が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪そのほか死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪のものであり,[3]その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,決定をもって審判に検察官を出席させることができ,検察官関与決定をした場合において,少年に弁護士である付添人がないときは,弁護士である付添人を付さなければならないこととされた(国選付添人)。
 一般保護事件の終局処理人員(平成13年以降)中の検察官関与決定のあった人員とそのうち国選付添人が選任された人員を主要非行名別に見ると,4-4-2-20表のとおりであり,検察官関与決定のあった合計84人中,21人について国選付添人が選任されている。

4-4-2-20表 一般保護事件のうち検察官関与があったもの及び国選付添人選任があったものの人員

ウ 観護措置期間の延長等

 観護措置期間は,原則2週間であり,特に継続の必要があるときは1回に限って更新することができるが,改正少年法により,[1]犯罪少年に係る禁錮以上の罪に当たる事件で,[2]その非行事実の認定に関し,証人尋問,鑑定若しくは検証を行う決定をしたもの又はこれを行ったものについて,[3]少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には,更に2回,最長8週間を限度として更新を行うことができるとされ,また,観護措置決定又は収容期間の更新決定に対する異議申立ての制度が新設された。
 少年保護事件の終局処理人員のうち,4週間を超える観護措置期間の更新決定があった人員(平成13年4月以降)は,4-4-2-21表のとおりであり,合計196人について4週間を超える更新決定がされている。
 なお,一般保護事件の終局処理人員中の観護措置期間は,28日以内が,平成14年は99.8%,15年は99.7%,16年は99.7%であった(司法統計年報による。)。

4-4-2-21表 4週間を超える観護措置期間の更新人員

 観護措置又はその更新決定に対する異議申立ての状況(平成13年4月以降)は,4-4-2-22表のとおりであり,合計433件の異議申立てがされ,このうち31件(7.2%)について,観護措置又はその更新決定が取り消された。

4-4-2-22表 観護措置決定等に対する異議申立て件数等

エ 検察官からの抗告受理申立て

 改正少年法により,検察官は,検察官関与決定がされた場合において,不処分決定又は保護処分決定に対し,検察官関与決定があった事件の非行事実の認定に関し,決定に影響を及ぼす法令の違反又は重大な事実の誤認があることを理由とするときに限り,高等裁判所に対して,2週間以内に抗告受理の申立てをすることができるとされた。
 平成13年から15年までは,検察官からの抗告受理の申立てはなく,16年は,5人について検察官から抗告受理の申立てがあり,このうち3人について抗告審で原決定が取り消された(法務省刑事局の資料による。)。

オ 保護処分終了後における救済手続

 改正少年法により,保護処分の終了後に,審判に付すべき事由の存在が認められないにもかかわらず保護処分をしたことを認め得る明らかな資料を新たに発見したときは,本人の生存中の措置として,保護処分をした家庭裁判所は,決定をもってその保護処分を取り消さなければならないとされた。
 平成13年4月以降16年までに,保護処分終了後の保護処分取消事件の終局決定があった人員は,2人(いずれも15年)であり,うち1人(業務上過失傷害)について保護処分が取り消された(最高裁判所事務総局の資料による。)。

(3) 被害者への配慮の充実

ア 事件記録の閲覧及び謄写

 改正少年法により,被害者等の申出により,少年の健全育成等に対する影響を考慮した上,非行事実に係る事件記録の閲覧・謄写をさせることができる制度が導入された。
 事件記録の閲覧及び謄写の状況(平成13年4月以降)は,4-4-2-23表のとおりであり,合計2,138人が閲覧・謄写を認められている。

4-4-2-23表 事件記録の閲覧・謄写の状況

イ 被害者からの意見の聴取

 改正少年法により,被害者等の申出により,裁判官又は家庭裁判所調査官が被害に関する心情その他の事件に関する意見を聴取する制度が導入された。
 被害者等からの意見聴取の状況(平成13年4月以降)は,4-4-2-24表のとおりであり,合計606人について意見の聴取がされている。

4-4-2-24表 被害者からの意見聴取の状況

ウ 審判結果等の通知

 改正少年法により,被害者等の申出により,家庭裁判所が審判の結果等を通知する制度が導入された。審判結果等の通知の状況(平成13年4月以降)は,4-4-2-25表のとおりであり,合計2,394人について通知がされている。

4-4-2-25表 審判結果等の通知の状況