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 平成17年版 犯罪白書 第2編/第7章/第1節/1 

第1節 刑事司法における国際的な取組の動向

1 国際連合

(1) 総論

 国際連合(以下「国連」という。)では,犯罪による人的及び物的な損失と社会・経済発展への影響を減らすこと,並びに刑事司法の国連基準・準則の履行を促進することを目的とした諸活動が展開されている。
 1950年の国連総会で承認された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する国際連合会議(コングレス。現在の名称は,「国連犯罪防止刑事司法会議」。)は,刑事司法の各領域にわたる政策の提案,意見交換のため,1955年の第1回会議以降5年ごとに開催されている。2005年4月にバンコクで開催された第11回会議においては,「バンコク宣言」を採択し,加盟国が,犯罪者引渡しや司法共助を含めた分野に関し,犯罪・テロ対策に関する国際協力の改善を図る意思を再確認するとともに,各国に対し,組織犯罪,テロ,腐敗,経済・金融犯罪等への対策を呼び掛けた。
 また,経済社会理事会の下の機能委員会として,犯罪防止刑事司法委員会(コミッション)が1992年に設置され,2005年5月に第14会期が開催された。同委員会は,国連における刑事司法分野の政策決定に携わるもので,毎年1回,ウィーンで開催され,我が国は,設立当初から同委員会の構成国に選出され,関与している。

(2) 薬物犯罪対策

 「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」等の多数国間条約が国連において採択され,これまでに我が国は,これらの条約を批准し,国内法を整備している。

(3) 国際組織犯罪対策

 国際組織犯罪を防止し,これと闘うための協力を促進する国際的な法的枠組みを創設するため,2000年,国連総会において,組織的な犯罪集団への参加,犯罪収益の洗浄及び腐敗行為の犯罪化,犯罪収益の没収及びそのための国際協力,組織犯罪に係る犯罪人の引渡し,証人の保護等について定めた「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「国際組織犯罪防止条約」という。)が採択され,我が国は,同年,同条約に署名し,同条約は,2003年5月にその締結について国会により承認された(2005年第163回国会までに関連国内法が成立していないため,未締結。)。そして,同条約を補足する「人(特に女性及び児童)の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書」(人身取引議定書),「陸路,海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書」(密入国議定書)及び「銃器並びにその部品及び構成部分並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書(仮称)」(銃器議定書)の各議定書も,2001年までに国連総会で採択され,我が国は,2002年12月に各議定書に署名した。我が国では,2005年6月8日,人身取引議定書及び密入国議定書の締結について国会により承認され(国際組織犯罪防止条約未締結のため,両議定書も未締結。),これらの国内担保法として,同月16日,人身取引等に係る罰則整備等を内容とする「刑法等の一部を改正する法律」(平成17年法律第66号)が成立し,同年7月12日から一部を除いて施行されている。

(4) 児童・女性等に対する犯罪対策

 1989年の国連総会において「児童の権利に関する条約」が採択され,我が国は,1994年,国会の承認を経て同条約を批准しているところ,2000年に国連総会において,「児童売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」及び「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」が採択され,我が国は,2002年5月にこれらの議定書に署名し,これらの議定書は,2004年4月にその締結について国会により承認された。「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」については,我が国は,2004年8月に批准し,我が国について,同年9月から効力が生じている。また,「児童売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」については,我が国は,2005年1月に批准し,同年2月から効力が生じているところ,同議定書の国内担保法として,2004年6月11日,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」(平成16年法律第106号)が成立し,同年7月8日から施行されている。

(5) 汚職・腐敗対策

 2003年10月,国連総会において,外国公務員等に対する贈賄の犯罪化や腐敗収益の被害国への返還の枠組み等について定めた「腐敗の防止に関する国際連合条約(仮称)」が採択され,我が国は,同年12月に同条約に署名した。

(6) テロ対策

 国連では,従来からテロを防止するため,テロリストのいずれかの国での処罰を確保できるようにするための国際条約等が採択されてきた。1999年,国連総会において,「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」が採択され,我が国は,2002年6月に同条約を締結し,「テロ防止関連12条約」(航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約,航空機の不法な奪取の防止に関する条約,民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約,同条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書,国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約,人質をとる行為に関する国際条約,核物質の防護に関する条約,海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約,大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書,可塑性爆薬の探知のための識別措置に関する条約,テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約及びテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約)すべてについて締結済みとなった。また,2001年9月の米国における同時多発テロ事件以後,既存のテロ防止関連条約を改正する動きがあるほか,2005年4月には,国連総会において,新たなテロ防止関連条約である「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(仮称)」が採択され,我が国は,同年9月に同条約に署名した。