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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第四章/四/1 

1 保護観察所への出頭状況

 保護観察を開始する際,もっともたいせつなことの一つは,対象者に保護観察の趣旨,特に遵守事項を中心とする保護観察期間中の心得を理解させ,その後のケースワークを支障なくすべり出させることである。このためには,まず保護観察開始時における保護観察所への出頭を確保することが肝要である。
 保護観察対象者の種別に従って出頭状況をみると,III-84表およびIII-85表のとおりで,仮出獄および少年院,婦人補導院仮退院等,一度矯正施設の門をくぐってくる,いわゆるパロールにおいては出頭率が高く,そうでない保護観察処分や保護観察付執行猶予等のいわゆるプロベーションのぞれは低い。パロールにおける出頭率が高いのは,地方委員会や矯正施設の職員から厳重に出頭方を説示されているからであろう。保護観察付執行猶予者の出頭率が特に低いのは,制度的な欠陥にも原因しているものと思われる。すなわち,裁判所が保護観察に付する旨の判決を言い渡しても,判決確定までの間に空白があり,また保護観察をうける住居地は,本人みずからが定めて,保護観察所長に届ければ足りることになっている。言渡裁判所からは刑執行猶予言渡通知書が,またその対応検察庁からは刑執行猶予確定通知書が,それぞれ保護観察所に送付され,本人の身上,犯罪等についての通知がなされるのであるが,これらを受理する以前に身柄が釈放されるため,保護観察所で当初の出頭を確保することができないのが現状であるからである。

III-84表 保護観察開始時における保護観察対象者の出頭状況(昭和37年)

III-85表 保護観察開始時における出頭状況累年別人員(昭和33〜37年)

 保護観察所へ出頭しない者に対しては,保護観察所から呼出状を発する等の方法で,出頭を促すのであるが,これによって出頭する者は後記のように少ないようである。
 昭和三六年七月以降に,東京保護観察所の保護観察に付された保護観察付執行猶予者(日本人の男子で,罪名窃盗の者)を,受理順に一〇〇人とって,法務総合研究所で調査したところ,不出頭者は二二人で,そのうち出頭を促されて出頭したものは二人にすぎない。不出頭者のうちには,保護観察をうける場所として届け出た住所が明確でないものや,また家出,放浪の習癖の強いものもあって,これらの者を保護観察下に導入するには,裁判所で判決言渡しの際,本人に保護観察の趣旨を十分に理解させるとともに,すみやかに保護観察所に出頭するよう厳重に説示する必要があるし,保護観察所においても,裁判所,検察庁と常時連絡をはかり,出頭の確保に努めるべきであろう。しかし抜本的には,保護観察官を裁判所に常駐させて,言渡しのつど,本人の居住予定地等を確認し,保護観察をうける心得を本人に理解させる等,保護観察の開始の円滑化をはかる措置をとりうるようにすることが必要であろう。現に,八王子,沼津,浜松,姫路,豊橋,飯塚,北九州(小倉),佐世保,名瀬の各裁判所支部所在地には保護観察官が駐在し,この種の事務を行なっているが,その成果は大いに期待される。