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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/七 

七 刑務所の問題点

 刑務所の運営上解決しなければならない問題については,すでに,本書でも,関係の章,節あるいは項において,それぞれ必要に広じて指摘したとおりであり,その他,とくに強調しなければならない問題として,拾いあげるならば,それは,昭和三八年の本書でも触れた次の問題に帰することとなろう。すなわち,(1)監獄法令の改正,(2)矯正処遇の合理化としての開放処遇制度の採用,(3)医療専門施設の拡充と分類センター制度の全面的採用,(4)給食の改善,(5)職員の勤務体制の合理化,(6)矯正施設の近代化,(7)処遇のための機構の合理化の七つの問題である。このうち,第一の監獄法令の改正は,すでに触れたように,昭和三九年四月に,一応の基礎的審議を終了したので,近く具体化されるはずである。その他の問題も,たとえば,分類専門職員の採用,副食費の増額,被服,食器類の規格改正案の検討,改築,増築の場合の近代建築様式と処遇の合理化に必要な設計の採用などによって徐々に実現をみている。
 しかし,ここでもっとも強調しなければならない点は,今日なお未解決のまま残されている刑務所の問題の多くは,実証的な研究の裏づけを必要としているということである。ことに,刑務所の行なうあらゆる処遇を被収容者の社会復帰と結びつけるためには,近代科学ことに人間に関する諸科学の知識にもとづく処遇方法の体系化が必要であることはいうまでもない。事実,矯正職員は,自己の行なっている処遇が,被収容者にどのような影響を与えているか,被収容者に対して行なっている評価は客観的なものであるかというような問題について,つねに科学的な根拠を求めているのである。このような問題の解決のために,欧米諸国でも研究機関が設けられ,また,わが国でも法務総合研究所が設立され,研究に着手しているが,これらの研究機関における経験は,他の領域における研究とことなり,矯正に関する研究は,直接現場と結びつかなければならないこと,したがって,研究機関と施設とが一体になり,施設の職員もその職務として研究の実施を分担することによって,はじめて前進できるものであることを教えている。矯正に関するかぎり,日常行なっている実務も,なんらかの研究計画の一部として整理するように方向づけさえすれば,実に貴重な資料となるのであって,もはや,実務と研究とを切り離して考える必要はないのである。その意味で,今後法務総合研究所のもつ機能を,一方では,法務省矯正局および関係施設の全面的協力を得てみずから研究を実施するほか,施設の行なっている実務を全国的な見地に立ったなんらかの研究計画と結びつけるための企画と援助,国際的あるいは全国的な研究活動の情報の収集と紹介,研究成果の刑事政策への反映などを実現する方向に進めるような気運の醸成が強く望まれる。
 とくに,このような気運のもとにおいて,将来の刑事政策樹立のためにすみやかに開放処遇制度,処遇のための機構の合理化をはじめ,保安処分をうけたものの具体的処遇の方法,あるいは施設釈放後も社会復帰のために訓練を必要とするものの処遇方法などの諸問題に対する施策の堅実な基礎的資料を得るための実証的研究の必要が痛感されるのである。