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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/六/2 

2 暴力犯罪受刑者の実態

昭和三七年の新受刑者について暴力犯罪受刑者の実態を検討してみると,まず性別では,暴力犯罪受刑者のうち女子は〇・六%,五八人にすぎない。したがって,暴力犯罪は主として男性の犯罪であるといってもさしつかえない状況であるので,以下の叙述では,男子受刑者のみをとりあげることとする。
 III-48表は暴力犯罪新受刑者の罪種群別年齢別人員を示しているが,これによると,暴力犯罪受刑者の三七・一%は二〇〜二四才の年齢層によって占められており,若年者が多いことを物語っている。全新受刑者の同年齢層の構成比率は二六・九%であるから,年齢の若いことが暴力犯罪受刑者の特徴の一つであるということができよう。これをさらに罪種群別にみると,財産暴力および性暴力犯罪群の半数以上が二四才未満の青年層によって占められており,これらの罪種が青年になじみやすい罪種であることを示している。

III-48表 暴力犯罪新受刑者の年齢別人員(男)(昭和37年)

 つぎにIII-49表によって,累犯(刑法上の累犯をいう。なお,罰金の前科の有無は看過すべきでない問題点であるが,ここでは,罰金の点を割愛した)の有無および入所度数を検討してみると,暴力犯罪受刑者中の累犯者は四三・三%であって,全受刑者の平均をかなり下まわっている。しかし,粗暴犯罪群の累犯者率が五三・四%を占めているのが,やや例外となっている。このような傾向は入所度数についてもみられるのであって,全受刑者中の累入者率が五九・四%であるのに対して,暴力犯罪者のそれは四六%である。ただし,粗暴犯罪群のみは五六・七%となっている。このことは暴力犯罪受刑者の年齢が若年層に片寄っていることおよび暴力犯罪の多くが罰金で処罰されつつあることと関連をもつと考えられる。

III-49表 暴力犯罪新受刑者の入所度数および累犯,非累犯別人員(男)(昭和37年)

 次に暴力犯罪受刑者の生活程度,犯時職業,教育歴,家族関係などの環境諸条件の実態についてみると,まず生活程度は「下流」が八一・六%を占め,下層階級出身者が多いことを示唆している。罪種群別では,財産暴力犯罪者群の生活程度が最も低く,ついで粗暴犯,生命暴力,性暴力の順となっている。入所前職業は技能工,単純労働者が多く四〇・四%を占め,無職者も三〇・一%いる。とくに財産暴力犯罪者の半数近くが,無職者であることが注目される。学歴については中卒五五・〇%,小卒一二・七%などがおもなものであるが,学校を中途退学した者が二三・四%いることが注意される。家族関係については,同居家族のある者七〇・二%,無配遇者六二・四%,被扶養者のない者六九・二%であって,かれらの家庭内における地位が従属的不安定であることを示している。以上の環境的特性は一般受刑者にもみられるところであって,とくに暴力犯罪受刑者のみの特色であると断定はできないが,生活程度においては性暴力,生命暴力群が一般受刑者の平均よりやや高く,財産暴力群に無職者が多く,非世帯主,無配遇者は性暴力,財産暴力群に多いことなどが指摘しうる。
 III-50表によって,暴力犯罪受刑者と,飲酒との関係をみると,飲酒し癖のない者は一八・一%にすぎず,「好む」または「大いに好む」者が半数近くを占めている。これらの点については,全受刑者の平均をかなり上まわっている。次いで,同表により犯罪時の飲酒の有無をみると,暴力犯罪者の三五・四%が犯罪時に酒を飲んでおり,全受刑者の平均の二倍に近い比率を示している。これらの事実は暴力犯罪と酒精との関連を示すものとして興味がある。

III-50表 新受刑者の罪名別飲酒し好および犯罪時飲酒別人員(男)(昭和37年)