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暴力犯罪の捜査の概況については,既に第一編において,ある程度ふれたところであり,また,犯罪全般の捜査および検察の概況については,第二編第一章において,これを明らかにした。ところで,一般に捜査の終結を形づくるものは,検察官の行なう起訴,不起訴の決定であるが,検察官は,犯罪の嫌疑が認められたとしても,犯人の性格,年齢および境遇,犯罪の軽重および情状,ならびに犯罪後の情況により,刑事政策上の考慮から訴追を必要としないときは,起訴猶予処分にすることができる。起訴猶予の権限は,検察官のもつ最も重要な権限の一つであり,起訴猶予の運用の適否のもつ刑事政策的意義は重大である。そこで本節においては,検察官が,暴力犯罪について行なっている起訴猶予の運用状況を中心とし,主として,統計面からながめることとしたい。
まず,昭和三七年に検察庁において処理された暴力犯罪について,罪名別に起訴率,起訴猶予率をみると,II-35表のとおりである。この表によると,起訴猶予率の低いものは,強盗強かん,強盗致死傷,強盗,傷害致死,殺人であるが,これらの犯罪が,いずれも凶悪ないし重大なものであることからみて当然といえる。ただ,これらの犯罪についても,少数ながら起訴猶予に付される事例があるが,これは犯情のきわめて軽微な共犯者があることなどによるものであろう。次に,起訴猶予率の高いものは,建造物損壊,逮捕監禁,決闘罪に関する件違反,威力業務妨害である。逮捕監禁には精神障害者に対し,その親族が犯したものが少なからず含まれているため,また,建造物損壊,威力業務妨害には,民事事件にからむものが相当数あり,犯行の動機,示談の成立等の情状をしやく量される場合が多いものと思われる。決闘罪に関する件違反については,実数が少ないので統計的にみることは困難であり,なお詳細な検討を必要としよう。次に,起訴率についてみると,起訴猶予率の高いものとしてあげた前記諸犯罪のほか,強制わいせつ,毀棄の起訴率が低く,また強かん,恐かつのような悪質な犯罪の起訴率が,あまり高くないのが目だつ。強制わいせつ,毀棄,強かんについては,これらの罪の全部ないし一部が親告罪であるため,告訴取消等の理由により,不起訴処分に付されることが多いためである。恐かつについては,若年者による,いわゆるたかりに類する比較的犯情の軽い事犯が少なからず含まれているためと思われる。なお,暴力犯罪の平均起訴率は六七・五%,平均起訴猶予率は二五・三%であるが,この率は刑法犯と,道交違反を除く特別法犯全体の起訴率が五七・五%,起訴猶予率が三二・一%であるのに比し,起訴率は高く,起訴猶予率は低くなっており,暴力犯罪に対し検察官がその他の一般犯罪に対するよりも,きびしい態度で臨んでいる事情がうかがわれる。 II-35表 暴力犯罪罪名別起訴,起訴猶予の率(昭和37年) 次に,起訴率,起訴猶予率の昭和三二年以降の推移をみるとII-36表のとおりである。この表によると,さきに述べた暴力犯罪の四罪種のうち,A(生命犯)およびB(財産犯的なもの)に対する起訴率と起訴猶予率は,ほぼ横ばいの状態にあるが,C(性犯罪的なもの)およびD(粗暴犯的なもの)に対する起訴率は,逐年上昇し,起訴猶予率は年ごとに減少の傾向にあることが明らかである。右CおよびDに該当する暴力犯罪が激増しておる状況については,既に第一編において明らかにしたところであるが,その状況に応じて,検察庁がしだいにきびしい態度をとりつつある実情が,明瞭に看取できよう。II-36表 主要暴力犯罪罪名別起訴率等の推移(昭和32〜37年) |