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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第3節/5 

5 外国人受刑者の移送の推進

 本章第2節3で見たとおり,各行刑施設では,F級受刑者の文化や生活習慣に応じた処遇に積極的に取り組んではいるものの,実際には様々な困難があり,業務上大きな負担となっていることは否定できない。他方,日本語を十分に理解しないF級受刑者に,受刑の意義を正しく理解させ,改善更生・社会復帰を図ることには限界があり,また,F級受刑者の大半は,釈放後,退去強制を受ける立場にある。そこで,F級受刑者を中心とする外国人受刑者について,言語,習慣等の相違や親族との接触の欠如等に由来する受刑生活上の困難を除去し,その改善更生及び円滑な社会復帰を促すための新たな施策として,国際受刑者移送制度が導入されている。

(1) 国際受刑者移送制度の概要

 国際受刑者移送制度は,受刑者を母国等に移送し,その国で刑の執行を行うことにより,改善更生及び円滑な社会復帰を図ろうとするものである。我が国においては,欧州評議会の「刑を言い渡された者の移送に関する条約(いわゆる受刑者移送条約)」(平成15年条約第1号)及び国際受刑者移送法(平成14年法律第66号)等の規定に基づいて,受入移送送出移送が実施される。「受入移送」は,条約締約国で受刑中の日本人受刑者を我が国に移送して受刑させるものであり,「送出移送」は,我が国で受刑中の外国人受刑者をその母国である条約締約国に移送して受刑させるものである。移送となった者は,母国における本来の文化的・社会的環境の中で処遇を受ける機会を与えられることになる。
 移送を実施するためには両当事国の合意が必要であり,その前提として法務大臣が移送の相当性を判断することとされている。送出移送の場合,法務大臣は,本人の改善更生・社会復帰の観点のほか,我が国の裁判所が言い渡した刑罰の持つ応報機能や抑止効果などをも総合的に勘案して相当性の判断を行うこととなる。また,移送を実施するためには,受刑者本人の同意も必要とされている。

(2) 国際受刑者移送制度の運用状況

 平成16年9月1日現在において,受刑者移送条約の締約国は55か国(欧州評議会加盟国42か国及び米国,カナダ,日本等非加盟国13か国。なお,条約未発効の国は含んでいない。)であり,我が国は,これらの諸国と受刑者移送を行うことが可能となっている。
 平成16年5月末日現在における外国人受刑者の総数は4,593人(うち来日外国人受刑者は3,335人)であり,国籍等別の内訳を示すと,5-3-3-8表のとおりである。受刑者移送条約締約国の国籍を有する者は203人(4.4%)であり,そのうち母国等への移送を申し出ている者は108人となっている。
 我が国について受刑者移送条約が発効した15年6月1日から16年5月31日までの1年間に実施されたのは,英国国籍受刑者の送出移送が1件である。

5-3-3-8表 外国人受刑者の国籍等別人員

(3) 日中間における受刑者移送条約の早期締結等

 本章第2節3において見たとおり,F級受刑者の8割前後はアジア地域の出身者であり,近年は,中国国籍の者がF級新受刑者の4割ないし5割を占めている(5-3-2-23表を参照)が,これらの諸国は受刑者移送条約に加入していないので,当面,移送の対象となる人員は限られることとなっている。外国人受刑者の送出移送をより積極的に実施していくためには,中国を始めとするアジア諸国との間で受刑者移送に関する二国間条約を締結するか,これらの諸国に対して受刑者移送条約への加入を働きかけていく必要がある。
 この点につき,平成15年12月に犯罪対策閣僚会議が策定した犯罪に強い社会の実現のための行動計画においては,外国関係機関との連携強化による犯罪対策の一環として,「刑務所等の過剰収容の一因となっている中国人受刑者の母国への移送の道を開くため,中国との間において,領事関係国際約束の締結に目途が立った段階で,受刑者移送に関する国際約束について協議を開始する。それに当たり,欧州評議会受刑者移送条約への中国の加入についても協議する。」とされており,法務省においては,今後の協議に向けて,中国の受刑者移送制度と刑事司法制度全般に係る調査・研究を開始している。