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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第1節/3 

3 過剰収容のもたらす問題

 過剰収容が,処遇面でどのような支障を来すのであろうか。問題点は,以下の3点にまとめることができよう。

(1) 受刑者の居住環境に対する影響

 過剰収容は,受刑者の居住環境を悪化させるが,そのこと自体がまず第1の問題であるといえる。過密な環境は,受刑者に緊張感,圧迫感をもたらし,それによるストレスは,好ましくない心理的影響を受刑者に及ぼす危険があり,改善更生・社会復帰のための処遇の実施にも影響しかねない。

(2) 行刑施設の管理運営に対する影響

 第2に,過剰収容は,行刑施設の管理運営上,様々な困難を生じさせる。
 行刑施設においては,受刑者間にトラブルが生じた場合の関係者の分離,いじめを受けるおそれのある者の保護,規律違反者の隔離などに備えて,常に一定数の独居房を空けておく必要がある。また,個々の受刑者の居房や工場を指定するに当たっても,同様の観点を含め,個々の受刑者の特性に配慮する必要があり,定員の上で余裕があっても,必ずしもその部分に受刑者を配置し得るわけではない。そのほか,補修工事などのために,居房が使用できないこともある。
 したがって,行刑施設を円滑に管理運営していくためには,定員に多少の余裕のあることが必要であり,本来であれば,収容率は100%に満たない水準で運営するのが望ましい。
 また,過密な環境によるストレスが受刑者間のトラブルや職員に対する暴行等の引き金となる危険性も考えられる。5-3-1-5図は,最近20年間における既決の収容率と,受刑者の懲罰受罰人員及びそのうち殺傷・暴行事案(受刑者に対するもの及び職員に対するものの双方を含む。)による受罰人員の推移を見たものである。また,5-3-1-6図は,既決の収容率と殺傷・暴行事案の発生率(受刑者1,000人当たりの受罰人員)の推移を見たものである。
 これらを見ると,収容率が上下するにつれて,受罰人員が増減していることが分かる。特に,殺傷・暴行事案の発生率と収容率は,非常によく似たカーブを描いており,過密な環境が,受刑者自身にストレスをもたらすとともに,管理上の支障を生じさせる危険性を示している。

5-3-1-5図 収容率及び受罰人員等の推移

5-3-1-6図 収容率と殺傷・暴行事案発生率の推移

(3) 適切な矯正処遇の実施に対する影響

 第3に,過剰収容は,改善更生・社会復帰という行刑目的の実現に支障を来すおそれがある。
 我が国における受刑者処遇上の基本的制度となっている分類処遇は,受刑者をその特性によって分類した上,それぞれの集団に応じた処遇を実施するというものであり,受刑者を,処遇に適した施設に速やかに移送して収容することが前提となっている。しかしながら,各行刑施設が定員を超える収容を余儀なくされている現状では,個々の受刑者に適した施設を選定することが必ずしも容易でなくなっているほか,収容予定先の施設に空きができるまで拘置所に待機させる期間も長くなり,本格的な処遇の開始が遅れるケースも生じている。
 また,過剰収容の深刻化に伴い,個々の受刑者に適した作業を指定することや,累進級に応じた処遇を実施することが困難になっている。例えば,居房の指定について見ると,平成16年5月末日現在,全国の行刑施設において受刑中の累進級第1級者(釈放前指導中の者を除く。)774人の約1割が,また,累進級第2級者(釈放前指導中の者を除く。)1万3,259人の約5割が,他の累進級の者と混合して収容されている状況にある(法務省矯正局の資料による。)。
 そのほか,教室の不足,参加定員上の制約,教育的処遇を担当する職員の配置が容易でないことなどから,覚せい剤乱用防止教育その他の処遇類型別指導への参加が順番待ちになったり,期間を短縮せざるを得ないといった問題も生じている。

(4) 小括

 このように,過剰収容は,[1]受刑者の居住環境,[2]行刑施設の管理運営,[3]適切な矯正処遇の実施という側面で看過し難い支障を生じさせており,収容人員に応じた収容定員とスペースを確保することは,いずれの観点からも不可欠であるといえる。