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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第2章/第1節/4 

4 監獄法改正に向けての動き(昭和50年代〜平成初期)

 以上のとおり,我が国の成人矯正は,改善更生・社会復帰理念の下,省令,訓令,通達といった下位規範の積重ねによって,処遇の充実を図ってきたが,監獄法そのものは,明治41年以降実質的な改正がなされておらず,国際的な行刑理念にそぐわなくなってきたほか,受刑者の改善更生・社会復帰という刑事政策的観点からも不十分なものとなってきた。
 そこで,昭和51年,監獄法改正について法務大臣から法制審議会に諮問され,55年に同審議会から答申がなされ,これに基づく刑事施設法案が作成された。同法案の主な内容として,[1]国と被収容者との間の法律関係の明確化を図るため,宗教上の行為,書籍の閲覧,面会及び信書の発受等の被収容者の権利事項を明示するとともに,規律秩序維持のための措置,懲罰等生活及び行動に対する制限の要件,手続,限界を明確にし,併せて適正かつ迅速な手続により被収容者の権利救済を図るための不服申立制度を定めること,[2]被収容者に対する適切な生活水準の保障を図るため,医療,食事,物品の給貸与等の充実を期するほか,作業報奨金及び災害給付に関する規定を整備すること,[3]受刑者の改善更生・社会復帰のための効果的な処遇制度の整備を図るため,個々の受刑者の資質及び環境に応じて最も適切な方法で受刑者の処遇を行うという「処遇の個別化」の原理を明らかにし,特に,矯正処遇として行われる作業,教科指導,治療的処遇及び生活指導については,個々の受刑者の特性に応じた適切な処遇要領に基づいて計画的に行うことを明らかにした上,外部通勤作業,外出,外泊等の新たな処遇方法を導入することなどがあった。
 刑事施設法案は,昭和57年の国会に提出され,さらに,一部修正を経た上で,62年及び平成3年にも国会に提出されたが,いずれも衆議院の解散によって廃案となり,監獄法改正は,今日においても実現をみないままとなっている。