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2 被疑者と被害者の面識 犯罪はその罪種によって,被疑者・被害者間に親疎の程度に差があり,殺人は,動機犯罪と呼ばれ,被疑者・被害者間に葛藤や利害相反等密接な関係があって行われることが多く,面識率(被害者に占める面識ある者(親族を含む。)の比率をいう。)が極めて高いのに対して,強盗は,被害者と相対して金品等の奪取を行う場合が多く,その性質上,面識があっては捜査機関に検挙される事態を招くこととなるため,面識率は極めて低い。傷害,恐喝等殺人と強盗に隣接する犯罪は,その中間的存在であって,面識がある場合もあればない場合も通常考えられるところである。
5―2―2―2図は,これら犯罪の面識率の推移を見たものであるが,殺人は面識率が80%を超える高率であり,強盗は10%台と低く,傷害は50%前後,恐喝は30ないし50%の間で変動していることが分かる。 5―2―2―2図 罪種別 被疑者と被害者の面識率の推移 5―2―2―3図は,殺人と強盗の平成14年の検挙事件について,面識の有無・被疑者から見た被害者との関係別の構成比を見たものである。殺人については,親族関係にある被害者が41.6%,知人・友人・職場関係者が31.9%を占め,いわゆる通り魔のような面識なしの事件は15.7%である。また,強盗は,面識なしが90.0%を占め,面識ありの中では友人・知人が多く親族は極めて少ない。殺人の被害者と被疑者との間に親族関係がある場合における検挙件数の推移を見たものが5―2―2―4図である。昭和54年から被害者が被疑者の子供である件数は減少傾向にあり,平成14年は,昭和54年の41.8%に過ぎない。その主たる原因は,少子化と嬰児殺(1歳未満の乳児を殺害したもの)の減少である。嬰児殺の被害者数と出生数の推移は,5―2―2―5図のとおりであり,被害者が子である場合の減少傾向とほぼ連動していることが分かる。 5―2―2―3図 被害者と被疑者との面識の有無等による検挙件数構成比 配偶者が被害者である件数は,平成5年ころまで減少した後,増加傾向に転じ,14年には,5年の41.7%増になり,父母が被害者になる件数は,3年ころまで増減を繰り返した後増加に転じ,14年には,3年の63.2%増になっており,家庭内でのあつれきから妻(夫)殺しや親殺しに発展する例が多くなってきたのではないかと推測される。5―2―2―4図 被疑者に対する被害者の親族関係別検挙件数の推移(殺人) 5―2―2―5図 嬰児殺害者数と出生数の推移 被害者が親族以外の面識者である場合の推移を見たのが5―2―2―6図である。面識者のうち友人・知人が被害者となる場合が昭和59年をピークとして漸減した後,平成5年以降は増加傾向にあり,14年までの10年間で30.5%の増加を示しているのに対して,職場関係者はほぼ横ばい,その他の最も関係疎遠な面識者が知人・友人とは対照的に減少している。親族関係での親や配偶者が被害者となる件数の増加傾向と併せ考えると,被害者側から見て身近にいる者から攻撃を受け被害者となる割合が徐々に高まる傾向が認められると言えよう。 5―2―2―7図は,強盗の被害者と被疑者の面識関係を見たものである。犯罪の性質上面識なしの件数が圧倒的に多く,特に平成2年以降増加傾向を示し,14年には元年の3.1倍にまで増加しているが,その一方で面識者も4年ころから増加傾向へと転じ,知人・友人が2年から14年にかけて3.6倍に増加し,その他の面識者も増加傾向を示している。 この面識者の変化は,知人・友人等であってもかまわず犯行に及ぶ強盗犯が着実に増加していることを示している。また,面識がある場合には,犯行の発覚を恐れて被害者に対して生命・身体に著しい危害を加えるなど,より悪質な強盗類型に移行する危険性を内包しているだけに,数は少ないが軽視できない危険な兆候であると考えられる(後記第5章特別調査で明らかなとおり,特に悪質な死刑・無期懲役求刑事案の強盗殺人の6割は面識がある者による犯行である。)。 5―2―2―6図 被害者が親族以外の面識者である場合の検挙件数の推移(殺人) 5―2―2―7図 被害者と被疑者の面識の有無等による検挙件数内訳の推移(強盗) |