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 平成15年版 犯罪白書 第1編/第1章/第3節/1 

第3節 交通犯罪

1 交通犯罪の動向

(1) 危険運転致死傷及び交通関係業過

 平成13年11月の刑法の一部改正(同年12月施行)により,危険運転致死傷罪が新設された。近年,酒酔い運転や著しい速度超過など,交通ルールを無視した悪質・危険な運転によって人を死傷させる事故が少なからず発生しているが,業務上過失致死傷罪は,必ずしもこれらの事故の悪質性や重大性に的確に対応するものではなかった。危険運転致死傷罪は,このような死傷事故を,不注意な運転による過失犯ではなく,故意に危険運転をして人を死傷させた故意犯ととらえて,暴行による傷害,傷害致死に準じた重大な犯罪として処罰しようとするものである。
 1―1―3―1図は,昭和21年以降の交通事故の発生件数及び交通事故による死傷者数の推移を示したものである。死亡者数のピークは昭和45年であり,近年においては,平成5年以降死亡者数が減少傾向にある。一方,交通事故の発生件数は,昭和53年以降増加傾向にあり,平成5年に過去のピークを突破して以降,毎年,過去最多の記録を更新し続けていたが,14年は前年に比べて減少している。また,負傷者数についても,10年には過去のピークを超え,ここ数年は過去最多の記録を更新していたが,14年は前年に比べて減少している。14年の減少は,危険運転致死傷罪の新設,道路交通法の罰則強化等が国民に交通ルールを守る大切さを再認識させたことが一因となっているものと思われる(巻末資料1―5参照)。

1―1―3―1図 交通事故の発生件数・死傷者数の推移

 1―1―3―2図は,最近10年間における危険運転致死傷及び交通関係業過の検挙人員の推移を示したものである。危険運転致死傷及び交通関係業過の検挙人員総数は平成10年以降増加し,12年には戦後初の80万人を突破しており,14年も前年の0.2%増の87万2,006人となっている。一方,危険運転致死,業務上過失致死及び(重)過失致死の検挙人員は漸減傾向にあったが,14年は前年より2.7%増の7,123人となっている。

1―1―3―2図 危険運転致死傷及び交通関係業過の検挙人員の推移

 1―1―3―3図は,いわゆるひき逃げ事件(交通関係業過を伴う事故不申告等)の発生件数及び検挙率の最近10年間の推移を示したものである。発生件数は平成8年以降増加し,特にここ3年間で急増しているが,検挙率は8年以降低下傾向にある。14年の検挙率は,死亡事故については92.7%であるが,重傷事故では50.6%,全体では26.9%に下がっている。

1―1―3―3図 ひき逃げ事件の発生件数・検挙率の推移

(2) 交通関係法令違反

 危険運転致死傷罪の新設に加えて道路交通法でも,悪質・危険な違反行為等に対する罰則強化等を含む道路交通法の一部を改正する法律(平成13年法律第51号)が,平成14年6月1日から施行されている。
 道交違反の取締件数の総数は,昭和59年のピーク時の総数1,384万6,532件から,ほぼ連続して減少傾向を示していたが,平成14年は,前年の0.1%増の781万9,217件となっている。1―1―3―4図は道交違反の取締件数を示している。道交違反のうち,交通反則通告制度に基づき反則事件として告知された件数は691万3,951件(取締件数の88.4%)であり,それを違反態様別に見ると,速度超過が最も多く,以下,駐停車違反,一時停止違反と続いている。他方,非反則事件として検察庁に送致された道路交通法違反について違反態様別に見ると,速度超過が最も多く,以下,酒気帯び・酒酔い,無免許の順となっている。送致件数のうち,いわゆる交通三悪とされている飲酒運転(酒気帯び・酒酔い)・無免許運転・速度超過が占める割合は76.1%となっている。

1―1―3―4図 道交違反の取締件数