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 平成14年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/2 

2 器物損壊と住居侵入の調査結果

(1) サンプル調査の内容

 器物損壊と住居侵入はともに法定刑が軽く,処理にあっては不起訴や略式請求に基づく罰金刑に処せられるものが大半を占める犯罪である。これらの犯罪は件数が膨大であり,その全部を調査することはもちろん,全国的な規模での調査を実施することも事実上困難であることから,法務総合研究所では,さいたま地方検察庁の資料に基づき,その具体的な犯行態様や量刑を左右する情状を見るため,さいたま地方裁判所(旧浦和地方裁判所)における平成5年から13年までの9年間の全判決結果を調査した。
 さいたま地方裁判所を対象として選んだのは,管轄内に都市部,農村部,中規模工場地帯,いわゆるベッドタウンなどを有し,かつ,年間1,500人ないし2,000人の地裁判決人員を有することから,地域的誤差や統計上の誤差が比較的少ないと思われたからである。

(2) 判決人員の数量的動向

 5-3-2-3表は,平成5年から13年までの間に判決があった人員の中から,事案の概要及び情状を把握できた393人(器物損壊の罪名で判決を受けた者114人及び住居侵入の罪名で判決を受けた者279人)の調査結果をまとめたものである。この人員には,器物損壊や住居侵入の実態や犯罪者の特質を分析するため,器物損壊又は住居侵入の一罪のみで判決を受けた人員に限らず,複数の罪名中に器物損壊及び住居侵入が含まれている人員をも対象としている。また,器物損壊と住居侵入の両罪で一つの判決を受けた者は,両方の人員数に計上した。

5-3-2-3表 さいたま地方裁判所における判決の動向

 器物損壊では,平成13年に人員が前年よりも顕著に増加しているが,住居侵入では11年以降50人台で推移している。

(3) 器物損壊の手口・態様の動向

 判決で認定された犯罪事実や証拠上認められた情状事実から,器物損壊により公判請求された犯行手口や態様等を見ると,器物損壊では,[1]自動車,玄関門扉,病院用コンピュータなど高額な器物の損壊事案,[2]器物に対する放火,コンクリートブロックの投げ込み,エレベータの安全装置の破壊など危険な態様での事案,[3]短時間における連続犯行又は長期にわたる常習的犯行などの事案,[4]ストーカーやドメスティック・バイオレンスから派生した事案,近隣住民とのトラブルに端を発する嫌がらせ目的の事案,暴力団のいわゆるお礼参りなど,動機・目的が悪質又は危険な事案,[5]同種又は粗暴前科多数を有する事案,同種執行猶予中の再犯事案,などが認められた。
 このように,器物損壊とはいっても,高額な財産上の被害を与えた事案,延焼や人の死傷すら招きかねない危険な事案などが認められ,器物損壊を軽々に微罪と評価してはならないことを示唆している。

(4) 住居侵入の手口・態様の動向

 住居侵入では,[1]窃盗が主たる侵入目的である者が,279人中201人と大半を占める。しかし,そのほかにも,[2]殺人,強盗,強姦,強制わいせつ,恐喝,逮捕監禁,誘拐などを目的とする事案,[3]常習的事案又は短期間にわたる連続事案,[4]ピッキング用具,包丁又は手錠等を持参して強盗,暴行,脅迫又は強姦を目的とする計画的事案,[5]窃盗等の前科を多数有する者又は窃盗や強制わいせつの執行猶予中に再犯した者が認められた。
 特に,住居侵入直後に他の犯行が敢行された事案を見ると,住居に侵入してから,当初の目的どおり,殺人,強盗,強姦,強制わいせつ,窃盗,傷害の犯行に及んだ事案も多く認められ,また,住居侵入後に偶然被害者と接触したことから,居直り強盗,強姦,殺人などの犯行に及んだ事案も認められた。このように,住居侵入が,強窃盗や強姦等の手段的犯罪でありこれらの実害を伴う危険性の高い犯罪であることを示している。