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 平成14年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節/4 

4 特異な類型の刑法犯の動向等

(1) 特異な類型の刑法犯の動向

 社会的な注目を集めやすい特異な刑法犯の類型として,保険金目的殺人,各種の強盗事件,児童虐待事件,カード犯罪,組織犯罪がある。これらの動向を見たものが,1-1-1-10表ないし1-1-1-17表である。

1-1-1-10表 保険金殺人の検挙件数

1-1-1-17表 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に係る検察庁新規受理人員

 現金輸送車強盗は,多発した平成9年を過ぎると認知件数は年間10件前後で推移しているが,金融機関強盗と深夜スーパーマーケット対象強盗(以下,本編では「コンビニ強盗等」という。)は,ここ数年の認知件数が急増している。13年は,金融機関の中でも郵便局を対象としたものが急増したが,検挙率は57.2%と強盗全体の検挙率よりも高い。コンビニ強盗等は,前年よりも133件増加したが,検挙率は前年よりも16.8ポイント下回る30.9%であり,急激に低下している。これらの強盗は模倣性が高く,今後の動向が注目される。
 児童虐待は,ドメスティック・バイオレンスと同様に顕在化しにくい犯罪であるが,各年とも増加傾向を示していることなどを考慮すると,今後の推移が注目される。
 平成13年におけるカード犯罪では,認知件数が前年比約1,500件の減少,検挙率が9.1ポイントの増加となっていることから,後記の改正法の成立・施行が犯罪の発生を抑制した可能性があることを示している。今後,同改正法の効果が注目される。また,組織犯罪は,前年比で検挙件数が急増し,適用罪名も拡張されており,この種事犯には加重処罰等で対処する必要性があることを示している。

(2) 特異な類型の刑法犯に対する立法的対応

 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)が平成12年5月17日に成立し,同年11月施行された。この法律で定める児童虐待とは,保護者がその監護する児童に対して虐待を行うことをいう。ここで保護者とは,親権を行う者や未成年者の後見人その他の者で児童を現に監護する者をいい,児童とは,18歳未満の者をいう。また,虐待とは,身体的虐待,性的虐待,怠慢若しくは拒否又は心理的虐待のうちいずれかの行為をすることであるが,無理心中及び出産直後の嬰児殺を除くものとされている。同法には,独自の罰則規定は置かれていないが,児童虐待に係る犯罪について,親権を行う者であることを理由に責めを免れることはないことが明記された。同法の公布・施行年から,児童虐待事件の認知件数・検挙人員が急増しており,同法の制定自体が,児童虐待事件の届出や検挙を促進したことがうかがえる。
 カード犯罪では,カード情報の電磁的記録を盗聴・不正入手して,電磁的記録部分を不正作出したクレジットカードを使用する手口が横行したため,刑法の一部を改正する法律(平成13年法律第97号)により,支払用カード電磁的記録に関する罪が制定された。同改正法は,平成13年6月26日に成立し,同年7月に施行されたもので,以後,支払用カードの電磁的記録の不正作出・同供用が加重処罰されたほか,新たに,不正作出された電磁的記録カードを譲渡,貸与,輸入又は所持する行為,電磁的カード情報の不正取得,不正提供,不正保管する行為,不正作出のために機器・原料を準備する行為等が処罰されることとなった。
 組織犯罪への対策では,組織犯罪を加重処罰した上,組織犯罪による犯罪収益を剥奪するのが世界的な傾向である。そのため,我が国でも,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成11年法律第136号)が平成11年8月18日に公布され,12年2月に施行された。同法が定める殺人や逮捕監禁等の特定の刑法犯が,組織犯罪に関連して行われたときは,刑の加重処罰がなされ,犯罪収益の剥奪がなされる。すなわち,前記特定の刑法犯が,[1]団体の活動としてその罪に当たる行為を実行するための組織により行われた場合,[2]または,団体に不正な権益を得る目的等で実行された場合,いずれも刑の加重処罰がなされる。さらに,前記の特定の刑法犯及び同法が定める他の特定の犯罪に係る犯罪収益等については,これを仮装・隠匿・収受する行為,及び,これを用いて法人等の事業経営の支配を目的とする役員変更等の行為なども処罰する規定を設けた。そして,犯罪収益等を犯人から剥奪するため,その没収・追徴及び保全手続に関する規定等も定めている。

1-1-1-11表 現金輸送車強盗事件の認知件数・検挙件数

1-1-1-12図 金融機関強盗事件の認知件数・検挙件数・検挙率の推移

1-1-1-13図 深夜スーパーマーケット対象強盗(コンビニ強盗等)の認知件数・検挙件数・検挙率の推移

1-1-1-14表 児童虐待に係る刑法犯の検挙件数・検挙人員

1-1-1-15表 児童虐待に係る刑法犯の罪名別加害者と被害者の関係

1-1-1-16図 カード犯罪の認知件数・検挙件数・検挙率の推移

用語解説

刑法犯
 凡例を参照して下さい。

認知件数
 凡例を参照して下さい。

検挙件数
 凡例を参照して下さい。

検挙人員
 凡例を参照して下さい。

検挙率
 凡例を参照して下さい。

一般刑法犯
 刑法犯全体から交通関係業過を除いたものをいいます。

交通関係業過
 凡例を参照して下さい。

凶悪犯
 犯罪白書では,殺人,強盗・同致死傷及び強盗強姦・同致死をいいます。なお,警察庁の統計では,これに放火も含まれます。

粗暴犯
 傷害・同致死,暴行,脅迫,恐喝,凶器準備集合罪及び暴力行為等処罰法違反をいいます。

財産犯
 窃盗,詐欺,横領,背任及び盗品譲受け等をいいます。

性犯罪
 強姦・同致死傷,強制わいせつ・同致死傷,公然わいせつ及びわいせつ物頒布等をいいます。

知能犯
 詐欺,横領,偽造,汚職,背任をいいます。