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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/5 

5 韓国

(1) 交通現況

 IV-22表は,1990年から1999年までの,韓国における,交通事故発生件数及び死傷者数の推移を示したものである。

IV-22表 交通事故の発生件数及び死傷者数

 1990年以降,事故発生件数,死亡者数,負傷者数のいずれもほぼ横ばいを続けているが,1999年には,前年と比べ,事故発生件数は15.1%,負傷者数は18.3%の増加を示している。人口10万人当たりの死傷者の比率を見ると,負傷者については,我が国とほぼ同じであるのに対し,死亡者については,我が国の人口10万人当たりの24時間以内死亡者の約3倍となっている(巻末資料IV-17参照)。

(2) 法制

 交通事故に関しては,我が国と同様,韓国でも,従来,刑法に規定する業務上(重)過失致死傷罪が適用されていたが,1960年代以降,産業化の進展に伴って交通需要が急増し,交通人口及び車両台数が大幅に増加するとともに,交通事故の発生件数も激増した。こうした状況を背景として,1981年に,交通事故処理特例法が制定され,車による交通事故事犯の処理において中心的な役割を果たすようになっている。
 交通事故処理特例法は,まず,車の運転者が,交通事故により業務上(重)過失致死傷罪を犯したときは,5年以下の禁錮又は2,000万ウォン以下の罰金に処する旨を規定している。なお,同法制定当時,罰金の上限として,業務上(重)過失致死傷罪について刑法が規定する罰金の上限を超える価額が設定されていたが,その後,交通事故処理特例法,刑法とも,それぞれ改正され,業務上(重)過失致死傷罪についての両者の規定は,現在では同一のものとなっている。
 次に,交通事故処理特例法は,被害者の意思,あるいは保険・共済への加入を条件に,車の交通による業務上(重)過失致傷罪及び業務上(重)過失建造物等損壊を内容とする道路交通法違反について,大幅に非刑罰化することを規定している。これらの罪を犯した運転者に対しては,被害者の明示した意思に反して公訴を提起することができず,また,交通事故を起こした車が保険又は共済に加入している場合は,被害者の意思のいかんにかかわらず,公訴を提起することができない。ただし,[1]業務上(重)過失致傷罪については,ひき逃げ,信号無視,中央線はみ出し,著しい速度超過,追越し禁止違反,踏切通過方法違反,横断歩道上の事故,無免許運転,酒酔い運転,歩道上での事故及び乗客等の転落防止義務違反等の一定の行為を伴う場合,また,[2]業務上(重)過失建造物等損壊を内容とする道路交通法違反については,これらのほか,保険契約や共済契約が無効とされ,若しくは解約され,又は契約上の免責規定等により保険・共済事業者の保険金・共済金の支払義務がなくなる場合は,いずれも前記非刑罰化の規定の例外として取り扱われ,それぞれ公訴を提起することができるものとされている。
 また,韓国では,いわゆるひき逃げ事件の増加を背景として,1973年に「特定犯罪加重処罰等に関する法律」(1966年制定)が改正され,逃走車両運転者に対する加重処罰が規定された。この規定は,車両の運転者が,業務上(重)過失致死傷罪を犯し,かつ,道路交通法に規定する事故発生時の救護措置をとらないで逃走した場合について,[1]被害者を置き去りにして逃走した場合と,[2]被害者を事故の場所から移動させて遺棄し逃走した場合とに分け,それぞれ当該運転者を加重処罰するとするものである。これらのうち,被害者を場所的に移動させて死亡させた場合の法定刑は,殺人罪(刑法250条)の法定刑と同じである。
 道路交通に関する法律としては道路交通法(1984年制定)があり,同法の規定に違反する行為に対しては刑罰を科することとされている。そのうち,同法に規定する法定刑が10万ウォン以下の罰金,拘留又は科料に当たる比較的軽微な事犯については,我が国における交通反則通告制度に類似の犯則金通告の制度がある。犯則者は,警察署長による犯則金納付通告書を受けた後,納付期限内に犯則金を納付した場合には,同犯則行為について再び処罰されることはない。警察署長は,上記の犯則金納付の通告をなし得ない場合や犯則者が納付期限内に犯則金を納付しなかった場合は,巡回判事の即決審判を受けさせなければならず,巡回判事による即決審判は,正式裁判請求期間の経過,正式裁判請求権の放棄,正式裁判請求の取下げ又は棄却により,正式裁判と同一の効力を有することになる。
 なお,法定刑が20万ウォン以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,法院組織法及び「即決審判に関する節次法」(「節次」は,我が国の「手続」に当たる。)に基づき,警察署長は巡回判事に即決審判を請求することができるものとされている。
 また,我が国の道路交通法違反に係るいわゆる点数制度に類似の罰点制度があり,罰点が一定以上になると運転免許停止又は取消しの処分となるが,韓国では,ひき逃げ車両の検挙に協力した運転者に対しては,特典点数が付与されることとなっている。
 IV-23表は,韓国における主要な交通犯罪に対する罰則等を示したものである。

IV-23表 主要な交通犯罪に対する罰則

(3) 処理状況

 1990年から1999年までの間の,道路交通法違反及び交通事故処理特例法違反について,検察庁における処理状況を見たものがIV-24表であり,第一審公判における処理状況を見たものがIV-25表である。

IV-24表 道路交通法違反及び交通事故処理特例法違反の検察処理人員

IV-25表 道路交通法違反及び交通事故処理特例法違反の第一審公判処理人員

 IV-26表は,1991年から2000年までの間の,前記「特定犯罪加重処罰等に関する法律」の逃走車両に関する規定による検察庁における処理状況を見たものである。

IV-26表 特定犯罪加重処罰等に関する法律違反(逃走車両)の検察処理人員