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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/2 

2 連合王国

(1) 交通現況

 IV-13表は,1982年から1999年までの間のイギリスにおける交通事故の発生件数及び死傷者数を見たものである。死亡者数及び人口10万人当たりの死亡者数が,1990年代前半において急速に減少し,その後も減少傾向を示していることが分かる。1999年では,我が国の人口10万人当たりの30日以内死亡者数が8.2人であるのに対し,イギリスの人口10万人当たりの死亡者数は5.9人となっている。また,人口10万人当たりの負傷者数には顕著な減少傾向は認められないものの,1980年代後半から我が国よりも低い値を示している(巻末資料IV-17参照)。

IV-13表 交通事故の発生件数及び死傷者数

(2) 法制

 イギリスにおいては,交通事故の多発や交通事情の悪化等を背景に,1991年道路交通法が制定され,それ以前の1988年道路交通法に改正が施されたが,この1991年道路交通法が,交通犯罪に関する現在の主要な法規となっている。同法においては,運転者の主観ではなく客観的運転基準から犯罪の成立を認め得るよう,従前の無謀運転(reckless driving)及び無謀運転致死罪を改め,一定の水準を大幅に下回る態様で,他人に対する傷害又は財物に対する損害を引き起こす危険性のある運転をすることなどを危険運転(dangerous driving)と定義した上で,危険運転致死罪及び危険運転罪を新設した。ほかに,相当な注意又は他人に対する合理的な配慮を欠いて運転する不注意・身勝手運転罪,飲酒又は薬物の影響を受けるなどの状態で,かつ,相当な注意を欠き,又は他人に対して合理的な配慮を欠く運転で,死亡事故を引き起こす飲酒薬物運転等致死罪,飲酒又は薬物の影響を受けている状態で車両の運転などを行う飲酒薬物運転罪・同管理罪等が設けられている。
 また,1992年には,1968年窃盗法が改正されて,加重自動車窃取罪が導入され,窃取した車両を危険運転し,又はその運転中の事故により過失致死傷を引き起こすなどの行為が厳しく罰せられることとなった。
 交通犯罪により訴追された場合,その犯罪が正式起訴犯罪(indictable offence)か略式起訴犯罪(summary offence)かなどに応じ,治安判事裁判所(magistrates court)又は刑事法院(Crown Court)において処理され,罰金,保護観察命令,社会奉仕命令,拘禁刑等が言い渡される(なお,2000年刑事司法及び裁判所業務法により,保護観察命令は社会内更生命令(community rehabilitation order)に,社会奉仕命令は社会内処罰命令(community punishment order)に,それぞれ名称が変更された。)。さらに,一定の交通犯罪に対しては,裁判所は,必要的運転免許資格はく奪又は裁量的運転免許資格はく奪を行う。必要的運転免許資格はく奪の期間は,原則として12月以上であるが,危険運転致死罪等特定の犯罪の運転免許資格はく奪の期間は,2年以上と定められている。また,飲酒薬物運転罪等については,過去10年以内に同種犯罪等により有罪判決を受けた犯歴を有する者の場合には,3年以上とされている。
 例えば,危険運転致死罪の場合,正式起訴(indictment)に基づく審理により,10年以下の拘禁刑又は10年以下の拘禁刑と無制限の罰金との併科に処し,2年以上の運転免許資格はく奪及び運転適性試験の受験を必要的に命ずることとされる。飲酒薬物運転等致死罪の場合には,10年以下の拘禁刑若しくは無制限の罰金又はその併科に処し,あわせて,2年以上の運転免許資格はく奪を命ずることとされる。危険運転罪については,正式起訴に基づく審理に付された場合には,2年以下の拘禁刑若しくは無制限の罰金又はその併科に,また,治安判事裁判所の審理に付された場合には,6月以下の拘禁刑若しくは法定最高罰金額(正式起訴に基づく審理と治安判事裁判所の審理の双方に付すことができる犯罪について,治安判事裁判所の審判に付された場合の罰金の最高額)又はその併科に処し,あわせて,12月以下の運転免許資格はく奪及び運転適性試験の受験を必要的に命ずることとされている。
 IV-14表は,イギリスにおける主要な交通犯罪に対する罰則等を示したものである。

IV-14表 主要な交通犯罪に対する罰則

 イギリスでは,反則金(fixed penalty)制度が導入されており,その対象となる犯罪に関しては,警察官が違反者に対して反則金の通告を行い,違反者が一定の期限内にその支払を行うことにより,手続が終了し,違反者は有罪判決(conviction)を免ぜられることになる。ただし,反則金の対象となっている犯罪であっても,その様態が悪質であり,警察官が反則金の対象としてふさわしくないと判断した場合には,その事件が法廷の審理に付されることもある。また,反則点数制度が設けられており,違反行為に応じて点数が加算され,その総計が12点に達した場合には,運転免許資格をはく奪されることになる。

(3) 処理状況

 IV-15表は,1990年から1999年までの間の治安判事裁判所及び刑事法院における交通犯罪の科刑状況を見たものである。治安判事裁判所において罰金,社会奉仕命令等,執行猶予のない拘禁刑を受ける者が,増加傾向にあることが分かる。

IV-15表 治安判事裁判所及び刑事法院における交通犯罪の科刑状況