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 平成13年版 犯罪白書 第3編/第2章/第1節/1 

第2章 非行少年の処遇

第1節 少年法改正を踏まえての処遇の概要

1 少年法改正の概要

 昭和23年に制定された少年法は,少年保護を理念の中心に据えた画期的な法律であったが,制定からほぼ半世紀が経過し,その間,社会も変化し,法の規定が実情に合わなくなったとの指摘を受けるとともに,少年による凶悪重大事件の続発により,少年事件の処分及び事実認定手続の在り方等が厳しく問われるようになってきた。特に,ここ数年,少年による社会の耳目を引く凶悪重大事件が相次いで発生し,少年事件の処分及び審判手続の適正化並びに犯罪被害者保護の必要性等が痛感されるようになり,法改正の気運が高まってきた。その結果,先般,改正案が,国会に上程され,平成12年11月28日に「少年法等の一部を改正する法律」(平成12年法律第142号。以下,本編において「改正少年法」という。)が可決成立し,13年4月1日から施行されるに至った。
 改正少年法は,改正前の少年法(以下,本節において「旧少年法」という。)の理念である「少年の健全育成」を維持しつつも,少年審判手続や少年に対する処分の在り方について改善を図るものであり,これによって,少年司法制度に対する国民の信頼を確保しようとするものである。以下,重要な改正点を概観する。
 改正少年法は,大きく分けると
(1) 少年事件の処分等の在り方の見直し
(2) 少年審判の事実認定手続の適正化
(3) 被害者への配慮の充実
の3本の柱から成っている。

(1) 少年事件の処分等の在り方の見直し

ア 少年法における年齢区分の見直し
(ア)刑事処分可能年齢の引下げ
 刑法41条は,犯行時14歳以上であれば刑事責任が問えるとしているが,旧少年法の下においては,処分時16歳未満の年少少年は,いかに凶悪重大な犯罪を犯したとしても,刑事処分に付することができないとされていた(旧少年法20条ただし書)。しかし,近年,年少少年による凶悪重大事件が頻発し憂慮すべき状況にあることにかんがみ,この年齢層の少年であっても,罪を犯せば処罰される可能性があることを明らかにし,社会生活における責任の自覚と少年の健全な成長を図る目的で,刑事処分可能年齢を刑事責任年齢に一致させ,その下限を16歳から14歳に引き下げた(改正少年法20条1項)。
(イ)少年院における懲役又は禁錮の執行
 (ア)の改正により,16歳未満の少年に対して懲役又は禁錮の言渡しをする可能性が生じたが,16歳未満の少年受刑者は,その年齢や心身の発達の度合いを考慮し,受刑者の社会復帰を促すための改善更生を図るという刑罰の教育的側面を重視した行刑が適当な場合も多いと考えられる。特に,義務教育年齢の者については教科教育を重視しなければならないことから,改正少年法は,懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年受刑者に対しては,刑法12条2項又は13条2項の規定にかかわらず,16歳に達するまでの間,少年院において,その刑を執行することができるとし,その場合には,懲役刑を科された少年受刑者であっても作業を課さずに,その間矯正教育を施すこととした(改正少年法56条3項)。
イ 凶悪重大犯罪を犯した少年に対する処分の在り方の見直し
(ア)いわゆる原則逆送制度
 故意の犯罪行為によって人を死亡させる行為は,自己の犯罪を実現するため尊い人命を奪うという点で,反社会性,反倫理性の高い許し難い行為である。このような重大な罪を犯した場合には,少年であっても刑事処分の対象となるという原則を示すことが,少年の規範意識を育て,健全な成長を図る上で重要であるとの考えから,罪を犯すとき16歳以上の少年に係る故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪(殺人,傷害致死,強盗致死,逮捕・監禁致死等)の事件については,原則として検察官に送致する決定をしなければならないこととされた(改正少年法20条2項)。
 ただし,この種の事件でも,家庭裁判所の調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境等を考慮し,検察官送致を行わないことができるとし,個々の事件の性質や少年の特性を考慮して,保護処分に付することもできる(改正少年法20条2項ただし書)。
(イ)犯行時18歳未満の少年に係る無期刑の緩和を裁量的なものとすること
 旧少年法は,無期刑をもって処断すべきときは10年以上15年以下の範囲内で有期刑を科することとしていたが,本来,無期刑を相当とした事案について必ず有期刑に軽減しなければならないとすることは適当でないので,無期刑を科すか有期刑を科すかを,裁判所が選択できることとした(改正少年法51条2項)。
(ウ)死刑を緩和して無期刑を科した場合における仮出獄可能期間の特則の不適用
 一般に,無期刑については,10年を経過しなければ仮出獄が許されないが(刑法28条),少年が無期刑に処せられた場合には,旧少年法では,可塑性に富む少年の特質等を考慮して,7年を経過した後仮出獄を許すことができるとして,要件が緩和されていた(旧少年法58条1号)。しかも,旧少年法51条では,犯行時18歳未満の者に対して死刑をもって処断すべきときは無期刑を科すこととしていたので(この点は改正少年法51条1項も同じ。),このような場合,死刑を軽減して無期刑とした上で,更に仮出獄期間を緩和した場合,二重に刑を緩和する結果となった。しかし,これでは,本来死刑に処すべき者が相当短期間で社会復帰をすることとなり,罪刑の均衡,被害者感情,国民感情の観点からも適当でなかった。そこで,改正少年法は,死刑を緩和して無期刑を科した場合には,仮出獄期間の特則は適用しないこととした(改正少年法58条2項)。
ウ 保護者に対する措置
 少年の再非行を防止し,その健全な育成を図るためには,少年を保護処分にするだけでなく,少年の保護者にその責任を自覚させ,少年の改善更生に向けた努力をさせることも重要である。そのため,家庭裁判所や家庭裁判所調査官による保護者に対する訓戒,指導等が実務上行われていたが,改正少年法は,裁判官等がより一層積極的に訓戒等の措置をとり,少年の再非行の防止を図ることを期待して,家庭裁判所や家庭裁判所調査官が,保護者に対し,訓戒,指導その他の適当な措置をとることができる旨明文で規定した(改正少年法25条の2)。
エ 審判の方式
 旧少年法は,22条1項において「審判は,懇切を旨として,なごやかに,これを行わなければならない。」と定めていた。この規定は,少年審判の手続自体が少年を保護し教育する場であるとの考え方によるもので,その趣旨に基づいて,少年の年齢や性格に即し,わかりやすく,少年,保護者の信頼を得られるような雰囲気の下で審判を行うこととしていた。この規定の下においても,少年に対して,真しな反省を促す必要があるときは毅然とした態度で臨むことは当然と考えられていた。しかし,条文の文言上,このような趣旨は明らかではなく,「なごやか」という文言から,かえって少年を甘やかすものという印象を受ける向きもあった。そこで,改正少年法は,「審判は,懇切を旨として和やかに行うとともに,非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。」と明示した(改正少年法22条1項)。

(2) 少年審判の事実認定手続の適正化

ア 裁定合議制度の導入
 改正前の裁判所法31条の4では,家庭裁判所が取り扱う事件については,特別の定めがない限り,1人の裁判官がこれを取り扱うこととしていたが,少年事件においても,複雑,困難な事案が見られるようになり,すべての事件を常に1人の裁判官で取り扱うとしておくよりも,事案に応じて合議体で取り扱い,多角的な視点を踏まえた審理判断を行うことを制度上可能とすることが適当である。そこで,家庭裁判所は,原則として単独制により裁判・審判を行うものの,他の法律で合議体をとると定めたもののほか,合議体で審判又は審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件については,合議体で取り扱うとし,少年審判に裁定合議制度を導入した(改正裁判所法31条の4)。
イ 検察官及び弁護士である付添人が関与した審理の導入
 非行事実の認定に問題がある事件については,証拠の収集,吟味について,多角的視点の確保や裁判官と少年側の対じ状況を回避させる措置が必要であり,また,事実認定手続に対する被害者をはじめとする国民の信頼を確保する必要があるという見地から,改正少年法では,一定の場合,少年審判に検察官を関与させることとした。すなわち,犯罪少年に係る事件であって,(ア)故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,又は(イ)(ア)に掲げるもののほか,死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役・禁錮に当たる罪のものについて,その非行事実を認定するための審判手続に検察官が関与する必要があると認めるときは,家庭裁判所は,検察官の関与を決定でき,その場合,検察官は,非行事実の認定に資するため必要な限度で,最高裁判所規則の定めるところにより,事件の記録及び証拠物を閲覧・謄写し,審判手続に立ち会い,少年及び証人その他関係人に発問し,意見を述べることができるとされた(改正少年法22条の2)。
 また,検察官が少年審判手続に関与する場合には,それとの均衡上,少年の利益を守る立場にある,弁護士である付添人が付されていることが適当であると考えられ,検察官関与決定をした場合において,少年に弁護士である付添人がいないときは,家庭裁判所が職権で国選付添人を付することとされた(改正少年法22条の3)。
ウ 観護措置期間の延長
 旧少年法においては,少年を少年鑑別所に収容する観護措置の期間は2週間を超えることができないが,特に継続の必要があるときは,1回に限り更新することができ,観護措置期間は最長で合計4週間とされていた(旧少年法17条3項)。しかし,少年事件においても,多数の証拠調べが必要であるなど相当の審理日数を要する事件があり,そのような審理を最長4週間の期間内で終えることは極めて困難である。そのような場合,これまでの制度では,やむを得ず身柄を釈放して審理を続けるしかなく,少年が逃亡したり,自殺自傷行為に及んだり,あるいは罪証隠滅行為を行ったりするおそれが払拭できなかった。そこで,そのような事態を防止しつつ,的確な事実認定を行い,少年に最もふさわしい処遇を決定するため,観護措置期間を最長8週間まで延長できることとした(改正少年法17条3項,4項,9項)。
 また,観護措置期間の延長に伴って,少年の身柄収容の判断を一層適正ならしめるため,観護措置決定及び更新決定について,異議申立制度が新設された(改正少年法17条の2,17条の3)。
エ 抗告受理申立制度
 旧少年法では,少年側にしか保護処分の決定に対する抗告が認められていなかったが,それ以外の場合でも,家庭裁判所の審判について上級審の見直しの機会が全くないのでは,被害者をはじめとする国民の納得が得られない。そこで,改正少年法では,重大な事実誤認等の上級審における見直しの機会を確保するため,検察官関与の決定があった事件に関し,検察官の申立てにより,高等裁判所が相当と認めた場合には抗告審として当該事件を受理することができる抗告受理申立制度が導入された(改正少年法32条の4)。
オ 保護処分終了後における救済手続の整備
 保護処分終了後,審判に付すべき事由の存在が認められないにもかかわらず,保護処分をしたことを認め得る明らかな資料を新たに発見した場合の保護処分取消しの手続を整備した(改正少年法27条の2)。

(3) 被害者への配慮の充実

ア 被害者等による記録の閲覧及び謄写
 少年保護事件の記録については,被害者等(被害者又はその法定代理人若しくは被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう〈改正少年法5条の2〉。改正少年法31条の2において同じ。)が損害賠償請求訴訟を提起している場合に,保護事件の記録を利用することを希望する場合がある。このような必要性は,少年審判の終局決定の確定前後にかかわらず生じ得るが,少年の健全な育成を害しない範囲でこれを認めることが相当な場合もある。旧少年法の下でも,少年審判規則7条1項により,家庭裁判所の許可を得て保護事件の記録の閲覧・謄写が認められていたが,改正少年法は,一定の要件の下での,被害者等の,少年保護事件の記録の閲覧・謄写の権利を明文化した(改正少年法5条の2)。
イ 被害者等の申出による意見の聴取
 少年審判が被害者等(被害者又はその法定代理人若しくは被害者が死亡した場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう〈改正少年法9条の2〉。)の心情や意見をも踏まえた上で行われることを明らかにして,少年審判に対する被害者をはじめとする国民の信頼を確保するとともに,少年に被害者等の心情や意見を認識させることによって反省を深めさせ,その更生を促すため,被害者等から被害に関する心情その他事件に関する意見を述べたい旨申出があったときは,家庭裁判所又は家庭裁判所調査官において,その意見を聴取することとされた。ただし,事件の性質,調査又は審判の状況等を考慮し,相当でないと認めるときは,この限りではない(改正少年法9条の2)。
ウ 被害者等に対する審判結果等の通知
 旧少年法の下では,少年事件審判が非公開とされ,被害者等が審判の結果等について十分な情報を得ることができないという指摘があったことから,改正少年法では,少年の健全育成の観点を踏まえつつも,事件の内容やその処分結果等を知りたいという被害者等の正当な要求に対して一定の配慮をし,家庭裁判所による少年審判の結果等を通知する制度が導入された(改正少年法31条の2)。