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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第7章/第8節/3 

3 被害者補償制度等

 1996年犯罪被害者支援法により,犯罪被害者支援審判所(Victim of Crime Assistance Tribunal)が設立されるとともに,1983年犯罪被害補償法(Crimina linjuries Compensation Act1983)が廃止され,新たh被害者補償制度が設けられた。主な変更点として,身体的被害に対する補償だけでなく,心理的な被害に対する補償を含めると同時に,犯罪被害を目撃等することで精神的被害等の間接的な被害を受けた者も補償申請の対象とするほ,か,心理的な被害に対するカウンセリング費用も補償対象に含めるなど,従来の経済的支援だけの補償(compensation)から,総合的な被害者の立ち直りの支援(assistance)のための補償への方向転換が図られている。なお,対象となるのは暴力を伴う犯罪だけであり,財産犯罪に対する補償が含まれないのは従来どおりである。この新しい制度で補償の対象となる被害者は,一次被害者(primary Victim,犯罪の直接被害者),二次被害者(sec-ondaryvictim,犯罪を目撃するなどした間接被害者又は18歳未満の一次被害者の保護者等),及び近親被害者(relatedvictim,死亡した被害者の近親者)であり,これらの被害者は,犯罪被害者支援審判所に犯罪被害の補償を申請することができる。補償の上限は,一次被害者の場合は,最高6万オーストラリア・ドル(以下,本節においては単にドルという。)で,医療費,カウンセリング費用及び葬儀費用を含んでいる。二次被害者の場合は,5万ドル,近親被害者の場合は,一人の被害者につき合計で10万ドルである。ただし,そのほかの手段で補償を得ている場合には,その金額が補償額決定の際に考慮される。また,この制度はビクトリア州で発生した犯罪被害に対してのみ適用される。犯罪被害者支援審判所での審理は,原則公開で,治安判事によって行われる。支援の決定は,・加害者が有罪となっていない場合や加害者が検挙されていなくても行われ得る。こうした補償制度とは別に,緊急にカウンセリングが必要な犯罪被害者に対しては,被害者支援・仲介サービスが運営する被害者カウンセリング制度があり,暴力犯罪の被害者の場合,又は殺人事件の遺族の場合は,5回までのカウンセリングは自動的に無料となり,必要な場合には更に5回まで延長が可能である。ただし,10回を超えるカウンセリングが必要な場合には,犯罪被害者支援審判所に,かかった費用の補償を申請することになる。
 犯罪被害者支援審判所が正式に発足したのは1997年7月1日であり,それ以前の申請については,旧制度によって処理されている。そのため,1997年度の補償実績に関する統計には新制度及び旧制度の両方が含まれており,旧制度による経済的補償が4,463万2,774ドル,新制度によるものが76万9,931ドルである。新制度により何らかの補償が給付されたのは124件で,そのうち,一次被害者は109件,二次被害者は2件,近親被害者は9件であり,上記以外で死亡した被害者の葬儀費用を負担した者に対しても,4件の給付が行われている。新制度による一件当たりの平均給付金額は6,209ドルである。1997年度審判所において処理された1万2,445件のうち何らかの給付決定が行われたものが5,891件,申請棄却が355件,申請不備による取消しが2,366件,決定に対する不服申立が161件で,そのほかは決定保留等となっている。