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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第7章/第7節/1 

1 犯罪被害者施策の沿革

 カナダにおける犯罪被害者施策は,1967年にサスカチュワン州において州政府による犯罪被害者補償制度が導入されたことに始まる。その後,1980年代から被害者に対する関心が高まり,各州で様々な施策が行われるようになったが,1983年に「犯罪被害者のための司法に関する連邦・州合同特別委員会」(Federal-ProvinciaI Task Forceon Justice for Victims of Crime)が被害者に対する刑事司法制度の変革を求める79項目の勧告を行ったことなどを契機として,連邦政府においても,本格的な取組がなされるようになった。
 1985年に国際連合で採択された国連被害者宣言を受けて,1988年には,連邦政府及び各州の司法大臣が署名した「犯罪被害者に関する司法の基本原則声明」(Statement of BasicPrinciples of Justice for Victims of Crime)が出されている。この声明には,被害者の司法へのアクセス,公正な取扱い及び援助の提供を促進する上で,カナダの社会の指針とすべき10の原則が列挙されている。
 この間,州レベルでは,マニトバ州において1987年に「犯罪被害者のための司法に関する法律」(Just ice for Victims of Crime Act)が制定されたのを皮切りに,各州(準州を含む。以下,本節において同じ。ただし,1999年4月にノースウェスト準州から分かれて新たに発足したヌナヴト準州については,資料の制約から,ノースウェスト準州に含めて記述する。)で次々と同様の立法が行われ,1997年にアルバータ州で「犯罪被害者法」(Victims of Crime Act)が施行されたことにより,全州が被害者に関する基本法を有するに至っている。
 連邦においては,被害者に関する基本法は制定されていないものの,数次にわたる刑事法典の改正や,「矯正及び条件付き釈放に関する法律」(Cor‐rections and ConditionalRelease Act)の制定(1992年)等によって,刑事司法における被害者の役割等が次第に明確化されてきた。その後も,刑事司法における被害者の地位の更なる強化や,被害者支援策の充実を図るため,連邦議会の「正義と人権に関する常任委員会」(Standing Committee on Justice and Human Rights)において検討が重ねられ,1998年10月に出された同委員会の報告書において,17項目の勧告が行われた。これを受けて,連邦政府は,1999年4月に刑事法典等の改正法案(Bi11 C-79)を連邦議会に提出し,同法案は,同年6月に成立した(同月30日現在,施行日は未定。)。同改正法(以下11999年改正法」という。)は,その序文において,できる限り被害者及び証人の権利と被疑者・被告人の権利との調整と和解を図ること,被害者及び証人を,礼儀,同情及び尊厳をもって遇すべきこと,特に被害者の安全やプライバシーに影響を与える決定に関しては,その意見や懸念が考慮に入れられるべきであることなどを明記している。