第5節 フランス
1 犯罪被害者施策の沿革 フランスでは,犯罪被害者は,犯罪によって生じた損害の賠償を求める私訴権(action civile)を,民事裁判所で行使することができるほか,刑事裁判所で公訴に附帯して行使することができるが,この制度では,加害者である被告人に賠償能力がなければ,賠償を得ることができなかった。 そこで,1977年に国による犯罪被害者補償制度が導入され,その後,拡充されていった。当初は,殺人,傷害等の暴力犯罪の被害者を対象とし,被害者が経済的困窮状態にあることや他に損害補てんの手段がないことなどが要件とされるなど,補償を受けるための要件が極めて厳格であったが,1983年に,死亡及び重大な身体障害については経済的困窮状態に関する要件が廃止されるなど,補償手続を容易にする改革が行われ,同時に私訴提起の要件も緩和された。一方,補償の対象については,1981年に窃盗,詐欺,横領等の財産犯の被害者に,また,1985年に強姦及び強制わいせつの被害者に拡大された。さらに,1986年にはテロの被害者に対して手厚い補償を与えるためにテロ犯罪被害者補償基金が設立されたが,1990年には,その他の犯罪による被害者に対しても,テロ被害者の基金と一本化した犯罪被害者補償基金(Fonds de garantie desvictimesdesactesdeterrorisme et dautres infractions)から支払をすることとなり,併せて,被害者の国籍に関する要件や死亡及び重大な身体障害に対する補償金額の上限が廃止された。 一方,1980年代から,多様な形の被害者援助組織が各地に作られたが,その多くが,1986年に設立された国立被害者援助・仲裁センター (Institut Nat10nald′AideauxVictimesetdeMediation,INAVEM)に加入して,被害者援助のネットワークを形成している。 また,1993年には,私訴原告人(partiecivile)の予審段階の権利を強化し,刑事仲裁についての規定を新設すること等を内容とする刑事訴訟法の改正が行われるとともに,少年法制の基本法である「1945年2月2日オルドナンス」(ordonnance)にも,賠償の措置の提案等に関する規定が設けられた。 さらに,1998年7月13日に司法大臣名で発出された「犯罪被害者援護の刑事政策に関する通達」(Circulairerelativea1apo11tiquep6nale daide aux victimes dinfractionsp6nales)では,刑事手続における被害者の地位,手続の各段階で関係機関がなすべきこと等が示されている。
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