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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第3章/第3節 

第3節 まとめ

1 事件による影響,謝罪・被害回復の状況及び被害感情
 [1] 殺人等及び業過致死の遺族については,そのほとんどが多様な精神的影響を受けており,生活面の影響についても,「家庭が暗くなった」ものの比率が,共にほぼ70%と,他の罪種よりも高くなっているなど,犯罪被害の精神面及び生活面への影響の深刻さがうかがわれる。しかし,加害者側からの謝罪のあったもの,示談が成立し,又は交渉中のもの,及び賠償金の「全額支払いがあった」又は「一部支払いがあり,残りも今後支払われる予定である」とするものの比率は,業過致死では,保険制度の普及等を背景として,いずれも70%を超えているのに対し,殺人等では,いずれも10%台から20%台にすぎない。これは,特に殺人等において,謝罪や賠償金の支払が十分に行われていないことを示しているといえる。また,民事訴訟の提起状況を見ると,「起こしておらず,今後も起こすつもりはない」とするものの比率が,殺人等で約36%,業過致死で約48%となっているが,特に殺人等では,不提起の理由として,「勝訴しても,相手方の資力から見て,損害が取り戻せない」と回答した者の比率が約68%と,最も高くなっている。
 これらのことは,殺人等の遺族の加害者に対する被害感情を,一層厳しいものとしていると考えられ,殺人等では,約91%の遺族が,現在「許すことができない」とし,また,事件直後から「ずっと,許すことができないと思っている」とするものの比率も,約53%と最も高くなっている。
 一方,業過致死でも約62%が,現在「許すことができない」としており,また,事件直後から「ずっと,許すことができないと思っている」と「前よりも,許すことができないという気持ちが強くなった」を併せたものの比率が約62%に及ぶなど,謝罪や賠償金の支払が,遺族の被害感情の好転につながらない場合も多いことがうかがえる。
 [2] 強姦及び強制わいせつの被害者については,その多くが多様な精神的影響を受けており,特に「異性に対して恐怖を覚えるようになった」とするものの比率が,強姦で約67%,強制わいせつで約51%と高く,生活面の影響では,「引っ越さなければならなくなった」とするものの比率が,共に他の罪種よりも高くなっているなど,犯罪被害の精神面及び生活面への影響については,その重大さだけでなく,被害者の恐怖心の大きさを反映しているように思われる。
 加害者側からの謝罪のあったもの,示談が成立し,又は交渉中のもの,及び賠償金の「全額支払いがあった」又は「一部支払いがあり,残りも今後支払われる予定である」とするものの比率は,いずれも共に30%台から50%台であるが,加害者側からの面会や謝罪の申出を拒否したもの,示談の申出があったが拒否したものの比率が,共にほぼ11%,ほぼ22%で,他の罪種より高くなっている。また,加害者に対する被害感情については,強姦で約84%が,強制わいせつで約69%が,現在「許すことができない」とし,事件直後から「ずっと,許すことができないと思っている」とするものの比率も,共に60%前後と高くなっているなど,被害感情の厳しさとともに,この種犯罪については,謝罪や賠償金の支払が,被害感情の好転につながらない場合も多いことがうかがわれる。
 [3] その他の罪種の被害者については,いずれも,80%台の被害者が何らかの精神的影響を受けたとしており,生活面の影響では,「生活が苦しくなった」とするものの比率が,傷害等,業過傷及び詐欺等で,いずれも40%前後,「仕事や学校を続けられなくなった」とするものの比率が,業過傷及び傷害等で,共に20%前後と高くなっており,犯罪被害が,多くの被害者に精神面及び生活面の影響を及ぼしていることがうかがえる。また,加害者側からの謝罪のあったもの,示談が成立し,又は交渉中のもの,及び賠償金の「全額支払いがあった」又は「一部支払いがあり,残りも今後支払われる予定である」とするものの比率は,保険制度の普及を背景として業過傷で60%台と高いほかは,共に20%台から40%台にすぎず,謝罪や賠償金支払が必ずしも十分には行われていないことを示している。加害者に対する被害感情については,「許すことができない」とするものの比率は,傷害等及び恐喝で70%を超え,他の罪種では40%台から50%台となっている。なお,業過傷では,事件直後と比べると「前よりも,許すことができないという気持ちが強くなった」とするものの比率が約26%と最も高く,そのきっかけを「加害者に反省の態度がみられないこと」とするものの比率が約69%と最も高くなっており,業過致死の場合と同様に,謝罪や賠償金の支払が,被害感情の好転につながらない場合も多いことがうかがわれる。
2 捜査・裁判に関する認識・要望等
 [1] 捜査に対する協力に負担を感じたものが全体では約34%であり,特に,強盗,強姦及び強制わいせつでは,いずれもほぼ50%と高くなっている。負担に感じた内容については,全体では,「他人に知られないような配慮が足りなかった」,被害者側の「言い分を聞こうとしなかった」,「しっこく聞いてきた」,「呼び出される際,自分の都合に対する配慮が足りなかった」,被害者に「落ち度があるようなことを言われた」,「被害者(遺族)としての悲しみや苦しみをわかっていないと感じた」とするものの比率がいずれも10%未満であるのに対し,「時間的拘束が大きかった」,「警察と検察庁で,同じことを聞かれた」,「呼び出しの回数が多かった」などはいずれも10%を超えている。特に,殺人等及び強姦では,「被害者(遺族)としての悲しみや苦しみをわかっていないと感じた」が20%前後,強姦及び強制わいせつでは,「女性の気持ちをわかっていないと感じた」,「担当者が男性だった」が少なくなく,特に殺人等,強姦及び強制わいせつにおいては,被害者等の心情への配慮が求められているといえる。
 [2] 証人として出廷した被害者等のうち,証人として出廷することに負担を感じたものは,全体では約46%で,特に,強盗,強姦及び強制わいせつで,いずれも70%を超えている。負担に感じた内容で多いものは,「被告人がいるところでは証言しづらかった」などであり,特に強姦及び強制わいせつでは,「被告人がいるところでは証言しづらかった」とするものの比率が50%を超えているなど,被告人の面前での証言が被害者等に相当の心理的負担をもたらしていることを示している。このほか,強姦及び強制わいせつでは「性に関することを聞かれて苦痛だった」とするものの比率も高くなっている。
 [3] 加害者の裁判結果については,全体では50%以上の者が知っており,特に,殺人等,強姦,業過致死及び傷害等では,知っているとするものの比率が高い。また,裁判の内容について,全体では,「軽すぎると思っている」とするものの比率が約54%と最も高く,「適当であると思っている」の比率は約23%,「重すぎると思っている」の比率は0.2%にすぎない。特に,殺人等及び業過致死では,「軽すぎると思っている」とするものの比率が,それぞれ約81%,約65%と高くなっており,多くの遺族が,軽すぎるという不満を抱いていることがうかがわれる。
 [4] 捜査・裁判等に対する要望等については,最も多いのは,刑事司法機関に対する情報提供への希望・不満を述べるものであり,提供を希望する情報の内容は,事件の内容,捜査経過,裁判の日時・進行状況,判決結果,加害者の釈放時期,加害者の現在の動向等である。
 また,捜査に対する協力や証人出廷への負担に関する回答結果を反映して,取調べの日時や被害者等の立場・プライバシー等への配慮を求めるものが多いほか,被害者の権利が保障されていないことに対する不満を訴えるもの,被害者が刑事手続から排除されていることへの不満や刑事手続への参加の希望を訴えるもの,被害者等の気持ちなどについて,刑事手続で意見表明することを希望するものなどがあった。
 このほか,刑事司法機関に対する要望として,加害者側の報復等からの保護,加害者に対する,被害者等への謝罪・賠償金支払等の指導・支援,被害者支援体制の整備等多方面にわたる要望が寄せられた。