前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成11年版 犯罪白書 第3編/第2章/第6節/2 

2 少年の保護観察

 本節では,少年に対する保護観察のうち,主に保護観察処分少年及び少年院仮退院者について述べる。
 (1)保護観察事件の動向
 III-32図は,昭和24年以降に保護観察所が新規に受理した保護観察対象者の人員を,保護観察処分少年及び少年院仮退院者の別に示したものである(巻末資料II-12参照)。

III-32図 保護観察新規受理人員の推移

 保護観察処分少年の新規受理人員は,昭和52年から交通短期保護観察が実施さねたことに伴って急増し,58年以降7万人前後で推移していたが,平成3年以降減少した。その後,6年9月に短期保護観察が導入されたこと等により,8年以降再び増加に転じ,10年には,前年より213人(0.4%)増加して5万4,221人となっている(本項(4)参照)。
 少年院仮退院者についても,昭和52年に少年院に短期処遇が導入されたこと等に伴って増加したが,60年代初めから減少傾向にあった。しかし,平成9年以降再び増加に転じ,10年は,前年より610人(14.5%)増加して4,815人となっている。
 なお,少年の保護観察対象者として,保護観察処分少年及び少年院仮退院者のほかに,少年の仮出獄者及び少年の保護観察付き執行猶予者があるが,平成10年における新規受理人員は,前者が1人(前年は3人),後者が30人(同14人)となっている。
 (2)保護観察対象少年の特徴
 ア 非行名
 III-33図は,平成10年における保護観察処分少年(交通短期保護観察を除く。以下,本項において同じ。)及び少年院仮退院者新規受理人員を非行名別に見たものである。保護観察処分少年では窃盗及び道路交通法違反の比率が高く,少年院仮退院者では窃盗及び傷害の比率が高くなっている。

III-33図 保護観察処分少年及び少年院仮退院者新規受理人員の非行名別構成比

 イ 年齢層
 平成10年の保護観察処分少年及び少年院仮退院者の新規受理人員を年齢層別に見ると,III-34図のとおりである。保護観察処分少年及び少年院仮退院者のいずれも18・19歳の占める比率が最も高いが,20歳を超えて少年院を仮退院する者も13.7%に上っている。

III-34図 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の年齢層別構成比

 ウ 国  籍
 平成10年における保護観察処分少年及び少年院仮退院者の新規受理人員の国籍(地域を含む。)別構成比を見ると,保護観察処分少年では,日本98.1%,韓国・朝鮮1.0%,ブラジル0.4%,中国0.2%,その他0.3%,少年院仮退院者では,日本98.0%,韓国・朝鮮1.3%,ブラジル0.2%,中国0.1%,その他0.3%となっている。
 エ 保護処分歴
 平成10年の保護観察処分少年及び少年院仮退院者の新規受理人員を保護処分歴別に見ると,保護観察処分少年では,処分歴のない少年の比率が49.6%で最も高く,次いで,保護観察処分18.3%,不処分16.5%,審判不開始12.8%となっている。少年院仮退院者では,処分歴のない者は27.1%で,処分歴のある者は,保護観察処分36.4%,少年院送致19.4%,不処分7.7%,審判不開始5.7%となっている。保護観察処分少年,少年院仮退院者のいずれも,近年,処分歴のない者の比率が上昇している。
 オ 薬物使用歴
 平成10年の保護観察処分少年の新規受理人員のうち,受理時において薬物等を使用していた者の比率は17.1%であり,それを使用薬物別に見ると,有機溶剤14.0%,覚せい剤2.6%などとなっている。
 力 不良集団関係
 平成10年の保護観察処分少年の新規受理人員のうち,受理時において不良集団と交渉のあった者の比率は35.6%であり,その内訳を見ると,暴走族15.7%,地域不良集団13.4%,不良生徒・学生集団4.8%などとなっている。
 キ その他
 平成10年に新たに受理した保護観察処分少年について,その他の特徴は次のとおりである。
 なお,少年院仮退院者については,薬物使用歴・不良集団関係を含め,少年院新収容者の特徴と同様である(本章第4節3参照)。
 (ア)保護者の生活程度は,「普通」が89.8%を占め,次いで,「貧困」の7.8%,「富裕」の2.2%となっている。
 (イ)居住状況では,両親(60.6%),母親(20.3%),父親(6.8%)など「家族と同居」している者が93.1%を占め,「単身」は4.0%となっている。
 (ウ)職業別では,有職者が49.7%,学生・生徒が25.3%,無職者が24.1%などとなっている。最近3年間では,有職者の比率が下降し,学生の比率が上昇している。
 (エ)教育程度では,高校中退が37.2%,中学卒業が26.0%,高校在学が16.4%,高校卒業以上が12.6%,中学在学以下が7.2%などとなっている。
 (3)保護観察処遇の状況
 ア 成績良好者に対する措置
 保護観察の期間中に行状が安定し,再非行のおそれがなくなったと認めらる者に対しては,次のような措置(良好措置)が執られる。
 [1] 保護観察処分少年
   保護観察を終了させる解除
   保護観察を一時停止させる良好停止
 [2] 少年院仮退院者
   保護観察を終了させる退院
 平成10年に執られた良好措置は,解除が4万8,057人(前年4万7,604人)で,そのうち交通短期保護観察少年が3万1,034人(同3万1,669人)であり,良好停止が204人(同474人),退院が786人(同714人)となっている(保護統計年報等による。)。
 イ 成績不良者に対する措置
 保護観察の期間中に遵守事項違反,再非行等があった者に対しては,次のような措置(不良措置)が執られる。
 [1] 保護観察処分少年
   家庭裁判所へ新たな処分を求める通告
 [2] 少年院仮退院者
   少年院に再収容する戻し収容
 平成10年に執られた不良措置は,通告33人(前年29人),戻し収容7人(同1人)となっている(保護統計年報等による。)。
 (4)各種の施策
 ア 分類処遇制度
 III-35図は,分類処遇制度(第2編第5章第3節3(1)参照)が発足した昭和46年以降のA分類率の推移を見たものである。特に少年院仮退院者のA分類率の高さが目立っており,昭和62年以降はおおむね30%台で推移していたが,近年は下降傾向にある。

III-35図 A分類率の推移

 イ 類型別処遇制度
 III-10表は,保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,平成10年12月31日現在,類型別処遇(第2編第5章第3節3(2)参照)の主な類型に該当している者の比率を見たものである。

III-10表 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の類型別該当率

 ウ 交通事犯少年に対する保護観察
 交通短期保護観察制度は,交通関係の非行性が固定化していない少年に対して,安全運転等に関する集団処遇を行うとともに,毎月1回,自己の生活状況を報告させ,車両の運転による再犯がなければ,原則として3月以上4月以内の短期間に保護観察を解除するものである。
 III-11表は,最近3年間における交通短期保護観察少年の新規受理・終了人員と集団処遇の実施状況を示したものである。

III-11表 交通短期保護観察少年の新規受理・終了人員及び集団処遇実施状況

 エ 短期保護観察
 短期保護観察は,交通関係業過や道交違反以外で保護観察処分に付された少年のうち,非行性の進度がそれほど深くなく,短期間の保護観察によって改善更生が期待できるものを対象とし,おおむね6月以上7月以内を実施期間として,少年の更生にとって特に重要な指導領域を選び,これに対応する一定の課題を与えた上で重点的な処遇を行うとともに,少年から定期的に生活状況を報告させることを中心として実施されている。
 平成10年における短期保護観察少年の新規受理人員は4,187人(交通短期保護観察少年を除く保護観察処分少年の17.8%)となっている。
 オ 社会参加活動
 社会参加活動は,保護観察対象者を老人ホームでの介護補助や公園での清掃活動などの奉仕活動を中心とする諸活動に参加させるものであり,短期保護観察少年に対する課題の一つとして実施されるほか,主として保護観察処分少年を対象に実施されている。平成10年度においては,全国で592回(前年度624回)実施され,1,679人(同1,731人)が参加している(法務省保護局の資料による。)。
 (5)保護観察の実施結果
 ア 保護観察終了時の状況
 III-36図は,保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,平成元年以降における保護観察終了事由別人員の構成比の推移を見たものである。保護観察処分少年については,期間満了の占める割合が低下して,10年には11.9%となっている一方,解除の占める割合は上昇傾向にあり,同年は76.3%となっており,保護観察成績良好者に対する良好措置が積極的に執られてきていることがうかがわれる。
 また,少年院仮退院者については,退院の占める割合はおおむね20%前後で,保護観察処分少年と比べ,良好措置の比率が低くなっているが,これは複雑な問題を抱えている少年が少なくないことを反映しているものと思われる。

III-36図 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の保護観察終了事由別構成比

 イ 再犯の状況
 平成元年から10年までの各年中に保護観察が終了した者について,保護観察期間中に,再度の犯罪・非行により刑事処分(起訴猶予を含む。)又は保護処分(戻し収容を除く。)を受けた者の比率(以下「再犯率」という。)と再処分内容の推移を示したものがIII-12表である。
 再犯率は,保護観察処分少年,少年院仮退院者共に,近年おおむね低下する傾向を示していたが,平成9年から上昇に転じ,10年中に保護観察が終了した者の再犯率は,保護観察処分少年が16.7%,少年院仮退院者が24.3%となっており,前年より若干上昇している。また,再処分の内容は,少年院送致の比率が高く,10年では,保護観察処分少年で8.0%,少年院仮退院者で16.1%となっており,再犯により実刑となる比率は,保護観察処分少年,少年院仮退院者共に0.2%と低い。

III-12表 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の再犯率