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 昭和38年版 犯罪白書 第四編/第一章/二/4 

4 密売従事者の特性

 密売に従事していた者を密売組織上の地位によって,上位(密売責任者以上),中位(仕入れ,保管,小分け,運搬係等),下位(密売直接従事者)に分けて,その特性をみると,法務総合研究所が法務省矯正局と協同して行なった,全国刑務所麻薬事犯者実態調査の結果では,以下のような点が指摘される。
(1) 刑務所入所度数は下位,中位者に二人以下が多く,逆に上位者は三人以上が六七・五%の多き全占めている。
(2) 国籍別では上,中,下位とも日本人が八〇-九〇%であるが,韓国人は上位にかたより,中国人は下位にかたよっている。
(3) 年齢は各階層とも二五-三五才が六〇%台であるが,二五才未満の若年層に下位,中位の者が二〇%強みられる。
(4) 刑期は下位,中位者の大部分が一-三年であり,上位者はやや長く二-五年の者が七七・五%を占めている。
(5) 実父母の欠損については,大きな差はみられないが,上位者の方が比較的早く実父母のどちらかを失っている。
(6) 教育歴は,中学程度の者は上位になるほど少なくなり,逆に小学程度または高校以上程度は上位者ほど多い。
(7) 転職回数は,中位者がもっとも多く,上位者が少ない。しかし,三回以上の頻回転職者は下位者がもっとも多く五〇・六%である。
(8) 内縁を含む結婚関係は,下位者に独身者または結婚一回だけの者が多く,上位者になるほど何回も相手を変えている。結婚二回以上が上位者に五一・七%みられている。
(9) 収入源となる職業は,下位者は明らかに定職のある者が多いが,その内容は,未熟練労働,臨時的な職業が大部分を占めている。中,上位者は麻薬密売を収入源としている者が大部分である。
(10) 知能指数は,一般に上位になるほど高くなっている傾向ががめる。
(11) 密売に従事した動機は,下位者の四三・一%が薬代かせぎのためとなっているのに対して,中位者は生活費かせぎ三〇・四%,友人の誘い三二・〇%であり,上位者は,生活費かせぎ二六・七%,組のため一八・三%となっている。上位者に薬代かせぎのためというのがかなりみられることは,密売従事者が自分で麻薬を打ちだすと検挙されやすいということを裏書きしていると解すべきであろう。
(12) 暴力団に加入している者は,上位者六一・七%,中位者四三・二%,下位者三二・七%となっている。
 したがって,密売組織の上位者は,一般的にみて,知能が高く,年長者で,暴力集団とつながりも深く,何回も犯罪を繰り返している者で,家庭的には不安定な傾向がうかがわれる。
 これに対して,下位の者は,年齢が若く,知能もさほど高くなく,一応職業はあるが何回も転職し,主として自分の薬代かせぎのために密売組織に加入した者が多い。
 中位者は,おおむね下位者に近い特性をもっているが,定職のない点は上位者に近く,密売加入の動機は,友人の誘い,生活費かせぎのためが多い点などが特色である。