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 昭和38年版 犯罪白書 第四編/第一章/二/2 

2 密輸ルートの実態と傾向

 わが国に密輸入される不正麻薬の主要な仕出し地は,ホンコン,バンコック,シンガポール,プサン(釜山),カルカッタ等であるとされており,警察庁の調査によれば,昭和三四年一月から三七年一二月末日までに,これらのルートを経由した密輸件数は,明らかになったものだけでも六五件で,押収した麻薬も相当量にのぼっている。
 これらの諸密輸ルートについて,最近の傾向をみると,ホンコンは一九五九年以来ホンコン自体の取締りの強化によって,密輸基地としての性格が弱まりつつはあるが,なお予断を許さない情勢であり,タイは一九五九年のあへん吸飲禁止以来へロイン事犯が増加しており,ホンコンに代わって密輸,密製造の基地化しつつある。また,韓国は昭和三七年二月の韓国内の取締りによって,一時活動を停止したかにみえたが,同年末頃から再び増加のきざしが見えてきている。このほか,インドその他の東南アジア諸国から,麻薬の好市場であるわが国に着目して,直接密輸をはかる事犯もみられてきていることは注目される。
 これらの密輸麻薬の,わが国における陸揚地は,神戸,横浜が大部分であり,さきにあげた六五件中,二二件が神戸,一八件が横浜に陸揚げされている。これに大阪が次いでいるが,航空機によって立川,伊丹などの飛行場へ密輸入された事件もみられている。しかし最近は,取締りの強化に対応し,警備の手薄な北九州その他の港に陸揚げする事犯が目だってきており,昭和三七年には門司,八幡,厳原などに陸揚げされた事犯が検挙されている。
 密輸の手段は,さきに述べたように,外航船舶の乗組員による携帯輸入が大部分であるが,これらの容疑船員は取締当局の情報を予知することが早く,その検挙にあたっては,国際的な協力が必要とされるとともに,陸揚地における取締りを強化し,いわゆる「水ぎわ作戦」が機敏に行なわれなければならない。密輸従事者は不良外国人が多いが,とくに最近韓国人の大幅な進出が注目されている。
 密輸麻薬はへロインが主力で,厚生省の調査によれば,昭和三七年中に七,九九一グラム強が押収されており,生あへんが七,五八八グラム強でこれにつぎ,塩酸モルヒネ,塩酸コカイン,大麻なども相当量押収されている。とくにへロインが,前年より四,六二八グラムの増加となっていることが注目される。