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5 教育 受刑者の教育は,入所時および出所時教育,教科指導,通信教育,生活指導,視聴覚教育,宗教教かい,篤志面接委員による助言指導,職業指導,体育およびレクリエーション指導などである。しかし,わが国の受刑者の処遇は,作業の賦課が法律上義務づけられているので,教育活動は原則として作業の時間外に行なわれている。
(一) 入所時および出所時教育 これらの教育は,前述したとおり,オリエンテーション・プログラムに組みこまれている。
(二) 教科教育 昭和三六年の新受刑者三七,二八五人についてみると,II-75表の示すように,不就学のものが六三七人(一・七%)で,そのうち読み書きのできないものが半数をこえている(三二二人)。また,小学校未終了者一,九三五人(五・二%),小学校のみの終了者六,七四〇人(一八・一%),中学校中途退学者四,六二七人(一二・四%)で,義務教育未終了者は一三,九三九人(三七・四%)におよんでいる。そこで,これらのものに,できるだけ必要な教科教育を行なうこととしている。なお,義務教育未終了者の割合は,男子に比較して女子に著しく多い(男子三六・九%,女子五四・二%)。
II-75表 新受刑者の犯時学歴別人員と率(昭和36年) (三) 通信教育 昭和二八年から全国的に通信教育がとりいれられ,昭和三五年からは大学課程の受講も許されることとなった。
昭和三六年度に通信教育受講を決定した成人受刑者の数は,公費生一,一五五人,私費生六一三人である。公費生とは,受講料を国費でまかなう者である。昭和三五,三六両年度における通信教育受講許可人員は,II-76表のとおりである。 II-76表 受刑者中の通信教育受講許可人員(昭和35,36年度) (四) 生活指導 受刑者の多くは社会生活の落ご者である。したがって,受刑者の自覚に訴え,規則正しい生活および勤労の精神を養い,共同生活を円満に営みうるような態度,習慣,情操ないしは知識,技術をかん養することが,収容生活の基幹として要請される。このような方針は,矯正教育の一環としての日常の生活指導に反映されているばかりでなく,講座としての一般的な職業指導,社会常識のかん養または情操を豊かにするためのグループ活動,社会見学なども,平日の夜間や休日に行なわれ,その指導には施設職員のみでなく,民間の学識経験者が招へいされている。
(五) 宗教教育 受刑という人生の苦境を味わっている受刑者に,その更生への精神的支柱を与えるには,まず宗教的情操を通じて行なうことが適切であると考えられ,戦前には国家の職員である教かい師によって,全受刑者に宗教教かいが行なわれてきた。しかし,戦後,新憲法のもとでは国家およびその機関による宗教活動ないし宗教教育が全面的に禁止されたため,教かい師制度は廃止され,矯正施設内の宗教教育は,すべて民間宗教家の篤志により,希望者に対してのみ行なわれている。
現在,受刑者の希望に応じて刑務所に来訪する宗教家は,全国を通じて一,四八五人(昭和三七年四月末現在)である。これらの人たちは,日本宗教連盟内に設けられた宗教教かい委員会の推せんにょったものである。 昭和三六年おける新受刑者の信教別人員は,II-77表のとおりであり,また,昭和三七年末現在の受刑者のうち宗教教かいを希望するものは,II-78表のとおりで,全員の七四・九%に達し,前年末に比較し,やや増加している。希望する宗教としては,仏教がもっとも多く(三八・七%),キリスト教(一三・七%),神道(五・八%)がこれに次いでいる。 II-77表 新受刑者の信教別(昭和36年) II-78表 宗教教かい希望人員と率(昭和36,37年) (六) 体育およびレクリエーション (1) 体育 体育本来の目的は,単に健康を保つために必要な運動を行なうことではなく,心身の鍛練,とくに忍耐力のかん養を図ることにある。しかし,刑務所における体育は,雨天のほか毎日三〇分以内(独居拘禁に付されたものについては一時間以内)の戸外運動(体操でもよい)を行なう以外には,積極的な規定がない。しかも,作業の種類によっては,その必要を認めないときは,しなくてもよいことになっている。したがって,それは単なる運動もしくはレクリエーションとして取り扱われているにすぎない。そこで,さしあたり,毎日作業時間中に,午前・午後の適当な時間に,一回三分以内で実施できる業間体操を制定し,その実施によって,積極的に受刑者の健康を増進し,作業能率の向上に資しているが,将来,課程をもった教育にまで発展させる必要があろう。
(2) レクリエーション 戦後,受刑者の作業時間(定役に服する時間)が,一日一二時間ないし一三時間から,一挙に八時間に短縮されたのに伴って,余暇時間の活用が重要な問題となった。スポーツ,映画,演芸,音楽,囲碁,将棋,読書などのレクリエーションが,各施設で実施されているほか,クラブ活動が積極的にすすめられている。
このうち,図書については,民間有識者の協力を得て「教化用図書審議会」を設け,看読図書の選定と図書室経営の改善を図っているほか,「社会を明るくする運動」などを利用して,広く民間有志からの寄贈を仰いで,その充実を図っている。昭和三七年末の図書保有量は,II-79表のとおり三八二,七七一冊(前年末より一四,六八七冊増)となっているが,時代的に古いものも少なくなく,受刑者の読書欲をみたすには少なすぎる現状である。 II-79表 看読図書保有数(昭和37年末現在) (七) 矯正教育放送および出版物 矯正という仕事は,人を対象とした仕事である。しかし,職員の数は,受刑者数に比してきわめてわずかである。そこで,マス・メディアの利用が考えられる。そのうち,法務省当局が積極的にとりあげているものに,ラジオ放送と出版物とがある。
放送については,最近までは,管理者側の伝達事項を伝え,簡単な時事解説を行なうほか,一般向け放送をそのまま流すのみであったが,昭和二八年夏以降,法務省の企画する全国矯正施設向けの放送番組を編成し,毎週月,水,金の午後六時二〇分から一五分間,日本短波放送によって全国に流している。この結果,放送に対する関心が高まり,各施設においても,自主的な番組を編成して流しているところが少なくない。また,昭和三六年から,一部の施設でB・G・M(バック・グラウンド・ミュージック)をとりいれ,作業中にも,これを流して効果をあげているとのことである。 出版物については,現在「人」「こころ」および「港」の三種が発行されている。「人」は,昭和一一年創刊のタブロイド版旬刊の時事解説紙である。「こころ」は,昭和二二年,少年受刑者向きの「人」として創刊されたが,その後,A5版六四頁の月刊誌に改められ,著名小説のダイジェスト,科学読み物,職業記事などを中心に編集されるようになった。「港」は,青年受刑者を対象として,昭和三一年に創刊されたA5版七二頁の季刊の教養誌である。これらの出版物は,いずれも全国の施設に配布されているが,各施設でも受刑者向けの所内誌を発行し,その編集,印刷には受刑者が参加している。 (八) 篤志面接委員制度 昭和二八年に発足したこの制度は,受刑者が拘禁中にもつであろう種々の個人的な問題,ことに国家権力ないしそれを代表するものとしての刑務所や,その職員との関係についての悩みをはじめとして,家庭,将来の生活設計,職業,教養,趣味など,施設の職員には直接聞きにくい問題について,民間の学識経験者の助言指導を求めて,その解決を図ろうとするものである。
現在一,〇五二人の篤志面接委員が委嘱されているが,担当部門別にみると,宗教関係(二四五人)および更生保護関係(二二五人)がもっとも多く,次いで文芸関係(一二三人),社会福祉関係(一二二人)などとなっている。これらの委員は,昭和三七年には,延べ五,九八六回にわたって施設を来訪し,集団面接二,五六〇回,個人面接八,六八五回を通じて,問題の解決に寄与している。これらの情況を統計表によって示すとII-80表(1)(2)(3)のとおりである。 II-80表 |