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 昭和38年版 犯罪白書 第一編/第二章/四/1 

1 女子犯罪の動向

 刑法犯第一審有罪人員中における女子の割合をみると,大正の初年には一〇%前後であったのが,昭和の初期には五・六%に下がり,昭和三三年には一・六%にまで低下している。しかし,昭和三四年,三五年には,I-24表によって明らかなとおり,多少増加のけはいを示している。

I-24表 刑法犯一審有罪人員中女子の人員と百分率(昭和26〜35年)

 I-25表は,新受刑者中の女子の百分率を示したものであるが,第一審有罪人員中の女子の比率とほぼ同率で,きわめて低いことがわかる。しかしここでも,昭和三四年以降ごくわずかではあるが上昇の傾向を示している。

I-25表 新受刑者中の女子の人員と百分率(昭和27〜36年)

 刑法犯検挙人員についてみると,女子の割合は若干高くなっているが,それでも一〇%には満たない。戦後一時増加して,昭和二四年には九・二%に達したが,その翌年から逐年低下して,昭和三四年には五・八%にまで下がった。しかし翌年から上昇のけはいを見せ,昭和三七年には七・六%になっている。刑法犯で検挙された女子の実数は,すでに昭和三二年からわずかではあるが増加してきている。
 特別法犯で検挙された者の中の女子の割合は,戦後の混乱期に著しく増加して,一五%にも達したが,これは食糧管理法違反者の増加によるものであった。しかし,昭和二八年以降は急速に低下して,昭和三六年には一・七%にまで下がっている。
 しかしながら,特別法犯によって検挙された女子の実数は,昭和二八年,二九年には増加の傾向を示し,三〇年,三一年,三二年とかなり著しく減少を見せたが,三三年以降再び増加している。この昭和二八年,二九年頃の増加は,覚せい剤取締法違反などの増加によるもので,その後かなり急速に減少して来たが,最近は道交違反,売春防止法違反,麻薬取締法違反などがそれにかわって増加してきている。ことに,道交違反における女子の進出にはかなり目ざましいものがあり,昭和三六年には昭和三四年の二・一倍になっている。この間における男子の増加率は一・五倍にすぎないが,その実数がきわめて多いため,道交違反の中で占める女子の割合は,昭和三四年の〇・七%から昭和三六年の〇・九%にわずかな上昇を示したにすぎない。
 これまでの犯罪学説によると,女性の社会的地位が低いほど,また,封建的な束縛の強い国ほど女性の犯罪率が低く,したがって女性の社会的進出に伴って,女子の犯罪の多くなる傾向があるといわれてきた。戦後,わが国では女性の解放が行なわれ,女子の社会的進出には目ざましいものがある。それにもかかわらず,わが国の犯罪統計は,女子の割合の増加を示さないばかりか,ここ一,二年は別として,逆に減少の傾向を示してきた。もし,女子の社会的進出が女子の犯罪を増加せしめるのであれば,女子の就職率の最も高い年齢層である一八才から二四才の者の間に,高い犯罪率が示されてよいはずであるが,新受刑者の年齢構成は,かならずしもこの年代の高い犯罪率を示していない(I-28表参照)。